9月25日は作曲家ショスタコーヴィチの誕生日です。生誕112周年ですね。そんなわけで、新生メロディアがショスタコーヴィチの生誕”110”周年を記念して発売した交響曲全集ボックス(10枚組 MEL CD 10 02431)から、今回は交響曲第7番の話です。誕生日に絡めた話題もちょっとあり。このボックスは、音楽配信サイトSpotifyで無料配信されています。CDで聴くより手っ取り早いので、こちらも是非。
(2023/7追記:各種リンク、目次や見出しを追加・修正)
(2020/7追記)MelodiyaがSpotifyなど、サブスクリプションでの音源配信を停止した様子。※NMLのニュースも参照。でも本ボックスに収録されていた第7番は聴けます(後述)。聴けないと慌てず冷静に。
(2020/9追記)記念ボックスはSpotifyの配信が再開された。再び上記リンクから聴けるようになった。※NMLの配信停止は継続。
・序のリンクはコチラ。
・各交響曲へのリンクはコチラ:
誕生日おめでとう第7番、そして⋯
今や交響曲第5番に匹敵する人気曲ではないだろうか。そのオーケストラの規模、演奏時間にもかかわらず、プロアマ問わず演奏会で採り上げられているように思う。私が過去聴きに行った演奏会では、年末の日程でしかも前半が映画音楽『五日五夜』というアマチュアの演奏会があり、曲目と意欲に驚嘆した記憶がある。
実際に演奏会で演奏の様子を見ながら聴いてみると、長大さが苦にならない。この曲の長さに辟易している御仁は、演奏会に行ってみることを個人的にオススメしたい。オーケストラの苦闘する姿も興味深いはずだ。もちろん自宅で聴くなら、第1楽章だけ、第3楽章だけ⋯という聴き方でも楽しめる。楽章ごとに筋が立っている。
作曲のエピソード? レニングラード市のために書かれた一大交響曲、それ以外に何か付け足す必要があるのかな、と思う。『証言』、バルトークとの逸話から果ては「CMで使われた」という俗な話まで、各自記憶にあるか、このご時世ネットで見飽きたことだろう。
ただ、この曲を作曲した当時を振り返るショスタコーヴィチについてだけ、引用しておこう。以下引用:
わたしは第七交響曲を七月十九日に書きはじめた。そして九月二十九日に第三楽章を書きおえた。気分はすっかり昂揚していた。三つの大きな楽章(演奏すると五十二分になる)を非常な速度で書きあげたので、出来ばえに影響しないか、急いだあとが出ていはしまいかと恐れた。だが、聞いていくれた友人たちには好評だった。
日づけはよくおぼえている。第一楽章は九月三日、第二楽章は十七日、第三楽章は二十九日に書き終えた。夜を日についで仕事をした。高射砲弾のとんでくることや爆弾のおちてくることもよくあったが、書くことだけは止めなかった。
九月二十五日、レニングラードでわたしは自分の三十五回目の誕生日を祝った。この日はかくべつ精をだし、この日書いたところは、特に感銘ぶかいとみなは言ってくれている⋯。
(『ショスタコーヴィチ自伝』P.124-125 訳・ラドガ出版、発売・ナウカ)
誕生日は第三楽章でも聴いて、ささやかに祝うのも、また乙なものではないか。
ディスコグラフィ
記念ボックスには、スヴェトラーノフ指揮ソビエト国立響の演奏(1968)を収録。SCRIBENDUMの復刻が話題になったかと思う。
(2020/7追記)Melodiyaの配信停止で、記念ボックスのリンクからは聴けなくなったが、アンソロジー収録で第7番は聴けます。Melodiyaの意地悪。スヴェトラーノフのショスタコーヴィチはSpotifyにまだ配信が残っているのだ。
(2020/9追記)記念ボックスのSpotify配信が再開されたので、このアンソロジーのリンクからでなくても聴けます。
ステレオ収録ながら、やや平板に感じる録音。だが、それがむしろこの曲の全体像を捉えやすくしている気がする。歌い上げも十分で、スヴェトラーノフは爆演・豪演の魅力もさることながら、曲の緩急がハマると絶品だと再認。下記CD化のみの、後年発掘された1978年のライブ(SCRIBENDUM)より好み。
このボックスの傾向から、ここでもコンドラシン指揮モスクワ・フィルの演奏が収録されるかなと思ったら、違った。テンポ早め、鳴らすところは鳴らすという、いつもの解釈。それがこれだけ説得力あるんだなと聴くたびに感心する。コンドラシンの指揮した交響曲では、前後の第6番、第8番にも引けは取らない演奏だと思う。なのに全集以外に録音を見かけないのが不思議。Spotify配信有。
(2020/7追記)配信停止で、下記リンクからは残念ながら聴けない。だが⋯
ダメだ、これはダメだ。まあその禁じ手、いや大げさか。でもやはり、入手するなら各自調べて正規の音源を探してほしい。
(2023/7追記)コンドラシンの全集は配信再開されており、現在は聴ける。逆にaltoの復刻の方が聴けなくなっている。まあ本家が聴けるなら良し。
目一杯やりきった感がある演奏なのが、ナヌート指揮リューブリアナ響の録音(VOX、ポニーキャニオン他)。これは噂に違わぬ演奏なので、聴いて損はない録音。私も最初は「本当に良い演奏なの?」などと思いながら手にとった。そしたらアタリだったと。一気呵成の解釈でダレずに聴ける。そしてやや非力ながらそんな演奏を繰り広げているオーケストラの情景を思い浮かべたくなる演奏。Spotify配信有。
ハイティンク指揮ロンドン・フィルの演奏(DECCA)はツボを押さえた好演。指揮者のイメージか、どうも「落ち着いた」「整然としている」という評も見かけるが、ことこの第7番に関して迫力・高揚感が不足しているようには、私は感じない。むしろロジェストヴェンスキー指揮ソビエト国立文化省響の録音の方が、丁寧すぎて全曲通して聴くと辛い時がある。どちらも今やSpotifyで聴ける。ハイティンクの全集はこうして聴けるのに何故かCDが人気。ロジェストヴェンスキーは早く全集でまとめて配信して欲しい。
最後に、コフマン指揮ボン・ベートーヴェン管の演奏(MD&G Records)を静かな夜に聴きたくなる。これだけの規模の曲なのに、室内楽のような響きがあって、ハッとさせてくれるのだ。コフマンの全集は、派手さはなくとも個性の佇まいが魅力的で、1番から順に再生したくなる全集。Spotifyで聴けないのが残念。CDバラ・全集売有り。
次回は交響曲第8番。また”謎”が息を吹き返すのか、それとも。