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生誕110周年・ショスタコーヴィチ交響曲全集を聴く 第8回 交響曲第8番

先月生誕112周年を迎えたばかりの作曲家、ショスタコーヴィチの生誕”110”周年を記念して、新生メロディアが発売した交響曲全集ボックス(10枚組 MEL CD 10 02431)から、今回は交響曲第8番の話です。このボックスは現在、音楽配信サイトSpotify無料配信されています。CDに限らず楽しむ手段がありますので、よければどうぞ。

Shostakovich: All Symphonies

Shostakovich: All Symphonies

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第1番から始まったショスタコーヴィチの交響曲の流れにおいて、ひとつの結晶と言って差し支えない曲だと思っている。聴いたことがなかったら、まずは聴いてみて欲しい。気に入らなくとも、またいつか、聴き直して欲しい。

ただ各交響曲の中で、第8番だけ突出・突然変異した作品だというわけでは決してない。これまでの記事で度々触れたが、第1番に萌芽をみて以来、第7番までの作曲を経たからこその、第8番ではないか。そう考えて交響曲を眺めていくと、やはり交響曲は全曲聴き逃がせないな、と再認しているくらいである。

交響曲第7番と同様、戦争、そして作品の内容において「謎」が再びちらつく曲だが、ここで敢えて第7番について戦後語った内容を引用しておきたい。以下引用:

私の武器はといえば、それは音楽だった。戦争が始まるとすぐ、わたしはピアノにむかって作曲しはじめた。すばやく、たっぷり、根をつめて働いた。われわれの時代、われわれの生活、敵に打ちかつべく骨身も命も惜しまぬソヴェトの人びとについての作品をわたしは創造したかった。仕事をすすめながら、わたしは、わが国人民の偉大さ、そのヒロイズム、人類の最良の理想、ソヴェト人のうるわしい性格、わが国の美しい自然、ヒューマニズム、美、そしてわれわれがそのためにたたかっているものについて思いをめぐらした。


(『ショスタコーヴィチ自伝』P.319 訳・ラドガ出版、発売・ナウカ)

極限状況でこれほど思いをめぐらしていたのなら、第7番の後に第8番のような曲も生まれるだろうね、と頷くのは私だけだろうか。


記念ボックスに収録されている音源は、少し珍し目、ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルの1961年ライブ。近年ではBMG JAPANや新生メロディアが単発で復刻していた音源。ショスタコーヴィチ好きなら「おっ」と少し唸るか、「あれかあ」とやや言葉が続かなくなるのではないか。というのも、まずモノラルの上に録音が良くないのだ。再生装置云々のレベルではないと思う。他の交響曲との音質面でのバランスを考えると、正直別のショスタコーヴィチゆかりの指揮者の演奏をチョイスしても良かった気がする。ムラヴィンスキーが指揮した録音として聴くべき内容があることは認めるにしても、他の指揮者だって引けは取らないものを残している。

もっともムラヴィンスキー指揮の録音をコレクションするならば、再発されまくっている1982年の録音(PHILIPS他)や1960年のロンドンライブ(BBC)だけ集めるというわけにもいかないので、痛し痒しか。私は82年の録音は、今だに第1楽章冒頭の咳ノイズで一瞬ゲンナリしてしまうなあ。alto盤はその辺り苦心していて微笑ましい。

Symphony No. 8

Symphony No. 8

ロンドンライブの咳は会場ノイズとして自然に拾っているせいか、少々ざわついても気にならない。むしろ音が遠いのにこの迫力、会場の熱気である。

BBC Legends: Recordings from the Archive

BBC Legends: Recordings from the Archive


全集録音で紹介しておきたいのが、コンドラシン指揮モスクワ・フィルの録音。ステレオ収録なのに、いかにも時代を感じる状態の悪さ(ステレオ感はちゃんとある)。音も割れ気味。だがそのせいか、異様に不気味で攻撃的な演奏に聞こえる。解釈云々よりも、これがショスタコーヴィチよ、みたいな御仁も少なくないのではないか。麻薬的な魅力。

私がよく聴く録音としては、フェドセーエフ指揮モスクワ放送響の録音、それも旧版(Moscow Studio Archive MOS19062他メロディア盤有)。浮足立たず、腹まで響くような音の深さが大変好み。Reliefの新盤よりこちらをよく聴いている。Spotify配信有。


この交響曲は、演奏するオケの知名度や技術レベルより、現代の世に世界各地でどのように表現されているかが気になる。オーケストラ自主制作盤も含めて、そういう聴き比べが楽しいのも第8番という作品の、地力ではないだろうか。ショスタコーヴィチゆかりの指揮者や場所で録音が残っているのも感慨深い。

カッツ指揮ノヴォシビルスク・フィルが比較的新しい録音を残してくれているのは嬉しい。ARTE NOVAの録音は結構特徴的なのだが、それを何の苦にもせず、曇りがかった世界に引き込んでくれる。国内盤も廉価版CDとして広くショップで取り扱われていたレーベルなので、割と有名な録音だろう。

Shostakovich;Symphony No.8

Shostakovich;Symphony No.8

  • アーティスト: Shostakovich,Kats,Novosibirsk Po
  • 出版社/メーカー: Arte Nova Records
  • 発売日: 2004/07/20
  • メディア: CD
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シモノフはもうショスタコーヴィチの全集には取り組まないのか。スロヴェニア・フィルとの録音(SF997029)はオケの技量に合わせているのか、安全運転な印象を受ける箇所があるものの、その分演奏に絶妙な陰影が出ていて聴ける。


オスカンプ指揮ベラルーシ国立響の録音(Erasmus WVH143)。正直オーケストラ・指揮者の珍しさと、ジャケットで手にとってしまった一枚。手に入れる機会は結局その一回きりだった。テンポは別段普通だが、時折いきり立ったように激しい音を出してニンマリする。


ヘルビッヒがザールブリュッケン放響とショスタコーヴィチの録音をリリースしていた頃があって、ひょっとしたら全集にでもするのかと思ったら、打ち止めになった。残念。8番(Berlin Classics 0017932BC)はヘルビッヒらしい癖のない解釈でありながら、迫力も不足していないし、ショスタコーヴィチの今を聴く録音として良い線行っていると思う。

Symphony 8

Symphony 8

次回は交響曲第9番。

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