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映画『ゴジラ-1.0』の感想 邦画と特撮、アニメに寄せて

ネタバレなしです。11/3公開の映画『ゴジラ-1.0』(公式サイト)の感想です。初回の鑑賞で面白かったので、この時期の感想ならば鑑賞前後どちらでも楽しめる記事を、と思い立ちました。

※画像をタッチ・クリックすると対ゴジラ篇の予告編(YouTube)が再生できます。

映画『ゴジラ-1.0』の感想

まず、ゴジラのルーツや存在に深く斬り込む作品ではないので、ゴジラのことは「火炎を吹くでかい怪獣」程度の認識があれば大丈夫。ゴジラのいる世界なんだ、と思って鑑賞すればOK。永遠のスターとして東宝の看板になった怪獣なので、その辺りは問題ないだろう。もちろん、これまでの日本、ハリウッドのゴジラ作品を観ていればより楽しめる。むしろ、いいとこ取りかもしれない。

そして本作の肝、VFXの出来は大変素晴らしい。映像の違和感、のようなものがほぼゼロに等しい。このクオリティでゴジラシリーズは続けて欲しい。それでいて艦船など、ちょっと特撮感、作り物感ある雰囲気を残していてニクい。

本作の主眼となるのは終戦直後という舞台である。ストーリーや登場人物の台詞に現代に通じる風刺を感じる箇所はあるが、メッセージにくどさがない。ドラマとして良い塩梅だと思う。実は過去のゴジラシリーズ(1960年代)にもそういう趣向があり、回帰的な内容ではないか。

回帰的といえば、主人公周辺の役回りも「あなたそういうポジションなの?」というくらい展開優先で動かしている。政府の組織云々、といったリアルさよりも、実はエンタメに振り切った作品。舞台設定も上手く利用しているが、むしろフィクションらしいご都合感が心地よいのが本作の特徴だ。

ストーリーや伏線はすごくわかりやすい。台詞だけでなく、映像でも明瞭だ。映画好きなら「あ、この展開はもしや」と先が読めてしまうのではないか。余談だが、兵器好きも同様か。また、登場人物の様子や映像で目についた箇所は終盤の展開に繋がると思って観てもらって構わない。ラストはスッキリしそうでいて、ああやっぱりね、という納得の”不穏さ”と書いておこう。登場人物にも、ゴジラにも気になる映像が入るはずだ。

登場人物の背景や心情描写自体は複雑ではない。順序立てて並べてある。穿ち過ぎることはない。幅広い層にウケるべく、とことん突き詰めたのだろう。キャストの演技は前半までけたたましいが、後半は抑制あって好ましい。お約束の応酬あり。”偽善者ぶって”という台詞だけ、気になった。うーむ。あとは行動が一部ウルトラCで苦笑するかもしれない。この後東京オリンピックとは言え。


最後に予告編を観て本編の内容に絶望を予期している向きのために、一言だけ。人類対ゴジラ、滋味ある攻防で手に汗握るので安心して観に行って欲しい。

『ゴジラのテーマ』はゴジラのテーマではなかった

ゴジラが好きなファンには今更の話で、既に巷で語り尽くされた話題かもしれないが、本作の公開と共にささやかに。


所謂『ゴジラのテーマ』と呼ばれるドシラ、ドシラの楽曲(以下、楽曲はSpotifyリンク参照)は、作曲者本人によると最初の映画『ゴジラ』(1954)ではゴジラのテーマではなかった。元々はゴジラに立ち向かう人類側のテーマだったとのこと。

実はこれ、『ゴジラ』(1954)本編を観ても分かる。ゴジラの再上陸に備えるシーンや隅田川を下るゴジラにF-86が攻撃するシーンで流れる音楽だからだ。全て人類側の手番である。それが後年”ゴジラの”テーマとして定着してしまったわけだ。


では、シン、じゃなかった真・”ゴジラのテーマ”はどれかというと、『ゴジラ』(1954)で使われた『ゴジラの猛威』や、後作品の『キングコング対ゴジラ』『モスラ対ゴジラ』で使われたゴジラのライトモチーフの方だとのこと。こちらは現在、ゴジラ出現時の音楽として比較的知られているのではないかと思う。


これらの話は作曲家・伊福部昭の古い文献やインタビューだけでなく、近年出版された文献にも収録されている。

昔、あの曲を私は人類側の主題として書いたのですが、それを今度はゴジラの主題にしてほしい、といわれたのでとまどったんですよ。
(『伊福部昭語る』 小林淳編 ワイズ出版)

今、ゴジラは『ゴジラ』のタイトルが主題のように思われてますけど、本当のゴジラの主題はあれでないんですね。『キングコング対ゴジラ』でゴジラが列車を襲うシーンの、あのティーララと上がっていく音楽、あれが主題なんです。
(『特撮をめぐる人々』 竹内博 ワイズ出版)

このことに着目して『ゴジラ-1.0』を観ると面白い、かもしれない。


ゴジラ-1.0 [CD盤]オリジナル・サウンドトラック

本作を観る前、観た後に

最後は多少与太話を含めて。本作の鑑賞前後でこれまでのゴジラシリーズを観ると、一層『-1.0』が楽しめると思うので紹介しておきたい。古い作品もあるが、比較的配信されているはずなので気軽にどうぞ。

まずは『ゴジラ』(1954)。当然というか、オマージュしたシーンがふんだんにある。個人的にはガイガーカウンターでニンマリ。

ゴジラ

ゴジラ

  • 宝田 明
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2作目の『ゴジラの逆襲』も通じるものがあると思った。戦法やら色々と。

戦法や、大海原の戦いといえば『大怪獣バラン』もそうか。こちらも最初の作戦は⋯。

『キングコング対ゴジラ』『モスラ対ゴジラ』は、エンタメ路線プラス風刺という観点で観ても興味深い。でも楽曲はそのまま垂れ流しじゃない方が良かったな。編曲もいくらでもあったろうに。音楽を挿入するタイミングは最高だったが。

ラスト付近はつい『ゴジラVSビオランテ』が頭を過ぎってしまった。人間(ヒロイン)とゴジラ、ね。この作品も『ゴジラのテーマ』の使い方に注目してみたい。

恐竜らしさで、『GODZILLA』(1998)は再評価しても良いかもしれない。

GODZILLA (字幕版)

GODZILLA (字幕版)

  • マシュー・ブロデリック
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『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』は最近のゴジラのデザインを考える上で見逃せない。そういえばこの作品のテーマや『ゴジラのテーマ』の使い方もそうだった。意外と原点回帰多いな。


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