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ドヴォルザーク 交響曲第8番ト長調 作品88の名盤

ドヴォルザークの交響曲第8番でこれが素晴らしい、という録音の話をしたいと思います。

ドヴォルザークの交響曲ならば、第9番 「新世界より」よりも躍起になって「決定盤」、「特選盤」を選出したくなる曲かと思います。私的ナンバー1も、枚挙にいとまがないでしょう。サブスクによってその楽しみ方は一層身近になりました。使ってなければ使ってみることをお勧めします。

名曲に隠れない名曲

前回の第9番「新世界より」の記事でも書いたが、ドヴォルザークが好きとは言え「新世界より」はもういいや、と興味を失ってしまった向きは少なくないかと思う。そういえば評論家の吉田秀和ですら、そんなことをあけすけに書いていた。感性の合う時だけ引き合いに出すのは畏れ多いが、私自身も一言一句違わず同じ状況なので引用したい。

 ドヴォルジャークの交響曲では、もちろん、私も、小さいときから、第九番の例の『新世界より』をきいていた。そうして、ひとなみに一時期は好んできき、それから、あきてしまった。その後は、もう、何十年も、ろくすっぽ、きいていない。何かの調子でラジオか何かできこえてきても、スイッチをきってしまう。あんまり通俗化してしまったので、きいても少しも楽しくならない。


『私の好きな曲』(ちくま文庫)

ただ、そんなドヴォルザークの交響曲第8番はどうなのかしら、と、ベートーヴェンやシューベルトの同ナンバー(私は『未完成』交響曲を第8番として憶えた)を思い浮かべながら聴き始めて、そのどちらの曲とも異なる豊かな曲想に魅了・圧倒されたのが、確か第8番との出会いだったと思う。


今更、『イギリス』とはなんぞや、とか、ボヘミアの香りがどうこうといった御託は並べない。出会いから年月を経ても、今だ種々の録音や実演を聴くたびに、新鮮な、まさに新しい世界に引き込んでくれる、クラシックファン冥利に尽きる曲ではないか。と大仰に書いて盤の紹介へ。モノラルを選択肢に入れずとも良い録音が揃っているので、全てステレオ録音。

ディスコグラフィ

こういう記事の先頭で紹介されることが少ない気がする、ドホナーニ指揮クリーブランド管弦楽団の録音(DECCA)。各セクションのバランスよく美しい演奏。ドヴォルザークは後期交響曲集を残しているが、どれもスタンダードたりえる好演。楽曲の魅力・人気故、選択肢が多いので埋もれてもしょうがないか。


クリーブランド管弦楽団といえば、ジョージ・セル指揮の録音(SONY)はやはり聴かせる。私は別にマイナー趣味でもマイナー芸でもないので。良いものは良い。この頃の精緻で重心の低い演奏を録音が良く捉えている。SACDも聴いたが、最近出回っているCDのマスタリングが十分良い音だと思っている。余談だがセルは第9番の解釈は忙しなくて今一つな気がする。


続けてセル指揮で、よくぞ発掘してくれたという録音。チェコ・フィルとのルツェルン音楽祭での演奏(audite)。ライブならではの瑕はあるものの、しっとりと、それでいて要所では開放感ある歌い上げ。同じく晩年のEMIの録音より崩していないのが印象的。


チェコ・フィルとルツェルン音楽祭で、auditeの新譜からもう一発。ノイマンのライブが素晴らしい。美しいところは美しく悠然と、堂々たる箇所は堂々と。まさかライブでの演奏にこんな顔があったとは。これまで発売されていたノイマンがチェコ・フィルを指揮したスタジオ録音は、どうも四角四面な演奏だったり、肩透かしのようなアクセントがあって聴く度に処分していた。この時代、食わず嫌いせずにサブスクで聴いて本当によかった。


実は第9番「新世界より」の記事で紹介した指揮者は、第8番も良かったりする。しかも第9番よりも魅力的に感じる演奏多し。まず、サブスクに入っていないインバル指揮フィルハーモニア管の録音(TELDEC(Warner))。これは面白い。第1~3楽章は手堅くまとめているのに、第4楽章の緩急が凄まじくてエキサイトする。もちろんオーケストラに破綻もない。スタジオ録音なのにライブみたいにはっちゃけている。


サヴァリッシュ指揮フィラデルフィア管(EMI)もやっぱり良い。実は最近サブスクで聴けるようになった音源。重厚さよりも、軽やかで溌剌としているのが印象的。第4楽章中盤以降のチェロが再度主題を演奏する箇所で、他とは違う版の楽譜を採用している模様。違和感あるので多分すぐわかると思う。初めて聴いたとき、ディスクのエラーかと思ってしまった。そういう珍しさで聴いてもおいても損はない。ちなみにマッケラスが指揮した録音も同じ版を使用している様子。


オーマンディ指揮フィラデルフィア管(RCA)の麗しい響き。心地よいテンポ。晩年のEMIに残した録音でなく、こういう演奏をハイレゾやSACDで聴きたいのだが。RCAのステレオ録音については引き続き集大成ボックスを待っている。


カラヤンの第8番は是非と言いたくなる録音がある。1974年のウィーン・フィルとのザルツブルク音楽祭のライブ(ANDANTE)。確か昔配信されていたはずだが、すぐ見つけられなかった。締めに締め上げたウィーン・フィルが、終始ギラギラとした音像をぶつけてくる圧巻の演奏。異様なテンションで畳み掛ける第4楽章に唖然とする。


解釈の妙味ならば、配信で聴けないロストロポーヴィチ指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏(EMI)も聴いておきたい。この位有名な演奏家でもサブスクに入っていない録音があるのは悩ましい。第1楽章から第4楽章まで、野暮ったいまでの濃厚な解釈。そしてここぞで突出する金管楽器群。それが癖になる。


最後に比較的新しめの演奏から、エド・デ・ワールト指揮ロイヤル・フランダース・フィルハーモニー管弦楽団の演奏(オーケストラ自主制作)を紹介したい。全楽章を通じた歌心が素晴らしい。録音もその芳醇な響きをよく捉えている。第2楽章の振幅も、第3楽章のあの甘々なメロディーも絶妙な解釈で、こういうのが聴きたかったの一言。各セクションの技量も高くて、終楽章はそれが特に際立っている。


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