中華映画特集上映「電影祭」2025で7/4から全国各地で1週間限定上映されている映画、『中国奇譚』(公式サイト)を観たので全体的な感想を書きたいと思います。ストーリーの詳細をダラダラ書いたりはしません。鑑賞前後の参考程度に。上海美術映画製作所がプロデュースして2023年に配信されたアニメ短編集で、中国全土で大ヒットしたとのことです。
今回は全8エピソードのうち4エピソードを再編集して初劇場公開。電影祭で日本初公開されるアニメ映画はかねてから注目していたものの、中国で2024年に公開された「傘少女」が同年日本で上映されたのを考えると、やや時間を置いた感があります。さらに最近だと『ナタ 魔童の大暴れ』のように、前作との連動すらおかまいなしに日本で即公開されるケースもありました。日本の市場でどういう中華作品がヒットするのか、模索しているのかもしれません。
ちなみに2年前の作品のため、配信元のbilibiliがYouTubeで既に全エピソード公開しています。字幕で英語も選べます。エピソードの順序も今回の劇場公開と異なります。
※画像をタッチ・クリックするとオリジナル版(YouTube)が再生できます。

『中国奇譚』(字幕版)の感想
基本的に全エピソード、古典的な”妖怪もの”が基調だと考えてよい。日本の作品だけでなく近年公開されている中華作品含めて、エピソードの筋も大体その辺りを前提に追っていけばハズれないだろう。まずそれらに抵抗なく興味があれば鑑賞して損はないかと思う。アジアのクリエイターの力量を大スクリーンで実感する有意義な機会でもある。
もっとも、日本の短編・実験作品と同様、起伏のないストーリー、存外アッサリした結末に物足りないと感じる部分もあるのは否めない。殆ど感銘を受けない向きも当然ある気がする。とは言え、終始そういう出来栄えというわけではなく、何かしら見どころはあると個人的には思っている。肩肘張らず、余裕を持って鑑賞することを勧めたい。余談だが中国アニメ映画のポスターは毎度ながらセンスが際立っている。エンドロールで見られる会社ロゴもローカルなだけではない独自性を感じる。
- 「ワンと神様はバスに乗って行った」
劇場版では本作をトップバッターに持ってきているが、初っ端にしては滋味あるというか、地味な作品を配してしまったかもしれない。この後に比較的明瞭なエピソードが控えているだけに、もう少し順序やエピソードの選定は趣向を凝らして欲しかった気がする。
日常に潜む妖怪、という王道なエピソードで、そこはかとない不気味さ、恐ろしさ、神秘的な表現は悪くない。ただ、中国の生活・文化をもっと知っていれば楽しめる内容ではないかと思ってしまった。これは人によっては、「この後のエピソードもこの調子ならよくわからない、楽しめない作品が続きそうだ」と、関心をなくす要因になりそうだ。
- 「妖怪くんの夏」
ベースとなった作品の強みもあるが、親しみやすさという点で、多分このエピソードが最もエンタメしていると思う。ズバリ『西遊記』のスピンオフ。孫悟空たちのライバルたり得ない、名もなき”下っ端”妖怪の悲哀を面白おかしく仕立てている。一方で情に訴えてくる場面も欠かさない。短時間ながら良くまとめている。ラストで本来主役である孫悟空の格を下げないのが、これまた憎い構成。この視点でそのうち長編で映画が作られるかもしれない。
ただ、少なくとも近年の日本の作品、とりわけアニメで見かけなくなった不衛生な表現・ネタ(要はオシッコ、ウンコ、鼻水ネタ)がまだ中国では受け入れられているようで、一瞬だがそういう場面はある。今の日本だとこういう表現に不快感を催す観客は存外いるのではないだろうか。こういった要素は『ナタ 魔童の大暴れ』といったヒット作が日本公開されたときも話題になっていたと思うが、今後中華作品でどういう扱いになるか注視したいところだ。
ちなみに過去に電影祭で公開された『傘少女』や『白蛇:縁起』、『兵馬俑の城』といった作品では目立ってそういう表現はなかったと思う。これらは制作側が既に中国外の市場も見据えていたのかもしれない。
- 「売店」
話の類としては「ワンと神様はバスに乗って行った」と同系統なのだが、こちらの方が登場人物や場所の背景が想像しやすいのではないか。個人的には『ワンと~』を先頭にする位なら、本作を最初に持ってきても良かったと思う。美術やカメラワークも本作のほうが目を引いた。妖怪のデフォルメにしても個性もあり愛嬌もありで、何より鑑賞後にハートフルな余韻が残る。ただ、この作品も若干ばっちい演出あり(生活感を醸し出すに自然なものではあったが)。それ故後回しにされたか。
- 「リンリン」
公開されたエピソードとしては最も古典的・伝承的、要は昔話的。アジアにおける狼という存在を再認識してしまう。それ故ストーリー自体はありきたりか。多分序盤から展開が読めてしまうだろう。人間に心開いた異種の顛末、といった趣である。どちらか一方的な悲劇ではないパターン。もう少し交流や心情描写があれば、ラストのお互いの心情をもっと探りたくなるところではある。制作上の制約か、残念だがそこまでの完成度には至っていない。それでも悲劇一辺倒でもない、単なるハッピーエンドでもない、品の良い締めくくりで、最後にこのエピソードを持ってきたことは理解する。本作は所謂リアル志向のCG作品だが、動画含めてスクリーンで観るには少し粗さ、拙さがあると思った。この種のCGはリアルさ、デフォルメのさじ加減も難しいと思うので、本作に限らず今後に期待したいところ。
最後に、劇場公開されなくてYouTubeで配信されているエピソードについて少し。6話はCGがもっとクオリティ高ければという印象。8話は今回上映してもよかったかもしれない。エンドロールも興味深い。この中では2話が話題になっていたと思うので、解説でも付けて公開されていれば。
※第2話の動画(YouTube)
