まさか毎年開催される演奏会だとは思わなかった『伊福部昭百年紀』。今年開催された『Vol.7』の人気も根強く、まだまだ今後も期待しています。今月の22日に、そんな演奏会の前年の録音が収録されたCD『伊福部昭百年紀Vol.6』(スリーシェルズ)が発売されたので感想を書いておきましょう。2018/4/28・北区北とぴあさくらホールでの録音。
- アーティスト:伊福部昭
- 発売日: 2019/07/22
- メディア: CD
冒頭で「毎年開催される~」と書いたが、現代音楽、殊に日本人作曲家の演奏会では本当に稀なことである。作曲家の人気と尽きない曲目もさることながら、企画・オーケストラ始めとした関係者には本当に感謝したい。
既に一連の演奏会で、演奏・録音、そして曲に対して賛辞から厳しい評価まで飛び交っているかと思う。しかしクラシック音楽というジャンルだけで考えても、それが「ごく当たり前」ではないのか。しかもSNS盛んなこのご時世だ。むしろ『百年紀』の継続がそんな状況を与えてくれていることを、日本人作曲家ファンとして、クラシック音楽ファンとして喜びたい。伊福部昭の音楽が、日本人作曲家の演奏会の度に謳われる「生で聴ける」という関心だけではなく、他のクラシック音楽と何ら変わらない、コンサートの定番化・レパートリー化という道に、ほんの少しだけ希望が見えてきた気がする。それでも当分先は長い。
できれば他の日本人作曲家もそんな状況に⋯一層厳しいだろうなあ。
それではCDの感想。まず宝田明指揮の『ゴジラのテーマ』がすごく良い。平成ゴジラシリーズで作曲家自身が振っていた録音のように、悠然としていてテンポ設定が絶妙。『SF交響ファンタジー第1番』を始め、実演ではどうもせかせかした印象が強い『ゴジラのテーマ』ですが、久々に納得の解釈を聴いた気がします。
『オマージュ宝田明』の曲目も、『緯度0大作戦』が静的な解釈で浸れる。音楽としても、伊福部音楽の底力を感じる楽曲の一つだと思います。そこにきて『忠臣蔵』の弾け具合も最高。
『怪獣大戦争』はゴジラシリーズと空想科学映画路線が融合された記念碑的な作品。人類対宇宙人にゴジラたち怪獣が絡むわけですね。先手は奪われるものの、宇宙人には滅法強い人類の反攻が痛快な作品です。これがゴジラシリーズでトップクラスに好き、という人は少なくない⋯はず。大体お前がそうなんだろ? はい。子供心に「この場面、他の映画で観たな」というフィルムの使い回しを察しながらも、後半の反撃場面・そして音楽で虜になりました。「殺人音波」の伏線も、今観るとハリウッド映画のような仕掛けで感心します。
『怪獣大戦争』メインタイトル。冒頭からやられました。
『怪獣大戦争』組曲では、ようやく『怪獣大戦争』のスタンダードを聴くことができた。などと書くと、どうもスタンダードという言葉が「そつのない」、「ありふれた」といった印象を与えてしまうのでしょうか。そんな世俗に毒されて⋯それは私だけか。いやいやそうではありません。ようやく末永く、繰り返し聴ける録音が登場という意味です。
とりわけ怪獣大戦争マーチ(メインタイトル)は、これがライブか、というくらい抜かりのない演奏。今までもスタジオ録音や編曲による録音があり、ステレオ収録で親しむ機会がありましたが、テンポの設定等々どうも一味足りない、そんな印象でした。今回の録音はその辺りの不満をクリアしている上、個人的にピアノやエレクトーンの煌めきが録音に埋もれず、聴き取れるのが嬉しい。
ちなみにこの録音以外で私がオススメしたいのは、『伊福部昭 映画音楽選集』(KICC296/7)に収録の演奏です。これは初めて聴いたとき、痺れました。「現代のオーケストラ・録音でもイケる曲じゃないか」と確信した録音でもあります。
ゴジラ・ラドン・キングギドラのライトモチーフ揃い踏みも聴き物。個人的に、「ドシラ、ドシラ」ばかり注目されているのが口惜しい。そうそう、ラモーのタンブランが粋な収録です。クラシック音楽を聴き始めた頃にチェンバロで聴いて、楽器の音色と趣の違いに唸った記憶があります。
『ゴジラVSモスラ』組曲は映画本編のサントラがステレオの良い状態で残っているため、再現という視点でも面白い。立体感・空気感は今回の録音がやはり優れています。モノラル録音との比較もそうだが、所謂迫力だけでなく、こういう音響を楽しむのが映画音楽をコンサート形式で行なうことの醍醐味だと思う。そこに編曲や演奏の妙がある。今回のCD全体として、そんな意図を感じました。ライブ特有の盛り上がり、テンポが早い、フォルテ多用も一興ですが、それだけで演奏の善し悪しを断ずるのは意固地な気がします。自戒を込めて。
新怪獣バトラのテーマが不穏で荒れ狂った様子を再現していて素晴らしい。サントラと同じサイズで収録されたメーサーマーチも⋯やっぱり嬉しい。何でしょうね、怪獣大戦争マーチと比べると、マニアック、通好み、裏番長的⋯とにかく知名度もまだまだで、何より演奏機会がほとんどない。用いられている旋律も伊福部作品を聴くに面白い歴史と話題がわんさかなのに。「SF交響ファンタジー」も第1番ばっかりだからなあ。
『VSモスラ』当時から既に自衛隊=やられ役のようなイメージがつきまとっていましたが、『サンダ対ガイラ』を観ればわかるように、このマーチとして成立したときは勝ち味ある戦いで流れていたのですね。勇猛さ、華やかさ一辺倒ではない、悲壮感も湛えた伊福部マーチ(アレグロ)の傑作だと思います。アンコールの演奏も颯爽としていてカッコいい。そうだ、怪獣大戦争マーチのアンコールは⋯ご愛嬌。あれは仕方ないです。
『わんぱく王子の大蛇退治』組曲。ああもう、足りないの一言。演奏の質じゃないです。曲目が。私の好きなヨルノオス国の曲が入ってない! もうサントラに入っている曲、全曲やりましょうよ。ライブシネマ・コンサートで。そのときは『旅立ち』の曲にシンバル追加をお願いします。
- アーティスト:伊福部昭
- 発売日: 2018/05/23
- メディア: CD
いやほんと、真面目にそろそろ企画して欲しいです。そのための下準備だと思っています、冬木透作品(ウルトラセブン)や『チャージマン研!』のライブシネマ・コンサートは。だって時間が短いとはいえ、『チャー研』をあの再現度なんですから。よくもあんなキチ⋯この記事ではやめておこう。
3SCD-0046 「チャージマン研!ライブシネマ・コンサートVol.2/宮内國郎特集」
- アーティスト:オーケストラ・トリプティーク
- 発売日: 2019/07/02
- メディア: CD
何だか最後の方は地が出てふざけてしまいましたが、気にするな! イカンイカン。このくらいにしておこう。最後にひっそりと、オーケストラ・トリプティークに今後のリクエストを。まずは先日の『Vol.7』絡みで『妖星ゴラス』組曲を是非。藤岡幸夫指揮で。サントラも再び手に入るようになりましたし。
- アーティスト:石井歓
- 発売日: 2019/04/24
- メディア: CD
あとは以前も書いていますが、古関裕而の凄さを今一度知らしめていただきたい。初期の管弦楽曲、どうにかして聴けないのでしょうか。それに今年公開の『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』に伊福部昭とともにエンドクレジットされた作曲家なのですよ! もう『モスラ』組曲しかないでしょう。
伊福部作品では、満を持して純音楽作品が頃合いの気もしますが、どうでしょう? その辺りは敢えて何も書かず、楽しみにしたいと思います。