中華映画特集上映「電影祭」で9/13から東京・神奈川で期間限定上映されている映画、『傘少女 ―精霊たちの物語―』(公式サイト)を観てきました。そこで過度なネタバレなしで感想を。日本における作品の知名度から、あまり気にする必要はないかもしれませんが。
電影祭で日本初公開のアニメ映画は要注目です。後々吹替版や全国上映される作品もあり、特に映像面の水準は、はっきり言って既に日本の作品と同等かそれ以上です。題材も、中国を舞台とした歴史小説や漫画が好きならば一層馴染みやすい作品が多いと思います。もちろん現代を舞台に描いた作品も興味深いです。
※画像をタッチ・クリックすると予告(YouTube)が再生できます。
映画『傘少女―精霊たちの物語―』の感想
中国の漫画原作のアニメ映画化で、現時点で漫画の日本語版は一般に流通してない様子。ただドラマ的な導入部があるので、まずは原作を知らなくても楽しめると思う。
実はこのことが作品全体の印象にも影響している。全てを映像化できない故か、劇中で途中複数あるエピソードが駆け足気味で消化されていくのだ。メインの登場人物の描写についても、良い意味で物足りない。人となりは作品内で掴めただけに、もう少し長い上映時間を確保するか、エピソードとキャラ数を絞ったほうがよかったかもしれない。そうすれば一本立ちした作品として完成度が高まったのではないか。もちろん原作を知っていれば、映像化で比べる楽しみがあるのだろうなと想像する。
とはいえ、ストーリーの軸や挿入されるエピソードの筋自体は良い。前述の通り全体的に駆け足気味だが、ちゃんと一貫性はあるのでよく観てほしい。主人公チンダイ(青黛)の台詞を気に留めておくだけでも明確だと思う。むしろ明確であるが故に、作品の粗が目立つのがもったいないのである。
物に宿る「精霊」を軸に、精霊と持主の関係、精霊の自我、人間の尊厳と物(芸術)の関わりについて、救いもありつつ厳しく切ない展開が終盤まで盛り上げる。登場人物の生存や恋愛の結実といった、観客受けを意識したような通り一遍の大団円で作品を締めくくらないところに制作陣(あるいは原作)の矜持をみた。心情描写も、過剰な演技や、わかり易さ重視で台詞を垂れ流すものではない。所作と演出で表現しており、映像美と相まって中華作品のセンスの良さを感じる。むやみやたらにハッピーエンドに舵を切らずとも、鑑賞後の余韻が良いものは作れるのだと得心がいった。
音楽は、楽曲としても演出としてもややくどいか。挿入歌とその映像演出は良かった。動画や美術はつくづく素晴らしい。舞踊に戦闘シーンから色彩、服飾や小道具に景色まで、映像に着目するだけでも楽しめる。特に中国古来の芸術に興味が湧いてくる。キャラクターデザインはもはや日本のアニメの様式を咀嚼しきっている。これからさらにオリジナリティが表出してくる予感があり楽しみだ。
※例えば既にWeiboで宣伝されている一場面。この美意識に痺れるし、浸れる。眼福。
全体的に惜しい部分はあるものの、特に映像面で観て損はしないと思う。手放しで褒めるよりも、アニメーションの可能性を感じて、良いところ探しをしたくなる映画だ。このような作品の限定上映は、できれば毎月開催してほしいものだ。配信でも観たい。
最後に、エンドクレジットにもちょっとした作中の「その後」があるので、できれば退席しないように。そんな長時間のエンドクレジットでもないので。最近はどの作品もこういった趣向を凝らすようですね。