8/30(金)より公開の映画『きみの色』(公式サイト)の感想です。あらすじ紹介のようなネタバレはなし。映画館で予告を観て早々と鑑賞予定に加えた作品。と言っても制作陣やキャストに惹かれて、というわけでもなく。オリジナル作品は虚心坦懐に観ていきたいものです。観る側として受賞がどうこうも興味ないです。
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映画『きみの色』の感想
冒頭からして、主人公の独白から入るパターン。近年のライトノベル、あるいはそれをアニメ化した作品でありがちな演出と見受けた。他に物語の導入の引き出しはないのかと、個人的には食傷気味。ここで作品全体の印象を決めつけた訳では無いが、ちょっと嫌な予感がした。そして残念だがその予感は当たってしまった。
オリジナル作品はネタ探しに躍起になっているのだろうが、ここにきて禁欲的な環境、「女の園」といった手垢のついた舞台選択をするとは思わなかった。それなのに全体を通じたテーマや作中の仕掛けを持たせているわけでもない。取り敢えず女の子はたくさん登場させたい、そんな意図が透けてみえて萎えるのだ。意図が透けてみえたといえば、ラジカセ等の小道具も最近流行りのノスタルジック要素で飽き飽きしている。
ならばメインの登場人物に後引く魅力があるかというと、はっきり言って、ない。主人公の「色」についての特性は、個性としても作品のアクセントとしても希薄。お話も展開に起伏なく、人間関係に面白味もなく、バンド活動の要素も引きが弱い。バンド仲間の悩みも、鑑賞する層に合わせて等身大に寄り添ったにしても、今一つの踏み込みである。優しいといえば聞こえがよいが、ありきたりのフィクションの域を超えてこない。
そもそも「劇中で何かしらきっかけがあって、一緒に音楽活動して特別なイベントとしてライブなりコンサートがあって、それに参加してクライマックスの盛り上がり」は、古典中の古典の筋書きである。これまでヒットした映画と比べるとしたら、登場人物や楽曲から作品のテーマに至るまで余程練らないと面白く感じない。「バンド活動」で何匹目かのドジョウを狙ったのかもしれないが、もうドジョウはいないと思う。
昨今音楽を題材にした作品が増えている気がするが、個人的に余程劇中で昇華されていないとオリジナル曲を聴かされても感動はしない。なぜならSpotifyはじめ、色んな音楽が手元で容易に聴ける時代である。未知の音楽に出会う楽しみは日々自ら積極的に営んでいるのだ。これは余談だが、映画の主題歌も同様だ。有名どころに歌わせるだけで楽曲に惹かれることはない。
もちろん成立過程や紆余曲折が劇中のスパイスとなって楽曲や映画を盛り上げることはある。だが劇中でいくら成長や絆をみせても、古典や定評ある音楽が大暴れする映画には太刀打ちできないのが現状ではないだろうか。楽曲や音楽の好みは各々あるにしてもだ。
もっとも、そういった映画は音楽の魅力だけでなく、音楽と音楽以外の要素が相まって作品を作りあげているからこそ面白いのだが。そんな映画としての一体感、統一感も本作は感じなかった。最後まで取り留めなく、盛り上がりのない映画だった。いや、盛り上がりではない。盛り上がりがなくとも、何か後引くところがあればよいが、ない映画だった。それが本作の売りだと言われたら、とても淋しい出来映えだと思う。映像は優しい色使いでアニメーションも悪くないが、取り立てて何度も観たいほどのものではない。キャストの演技に不満はない。だが映画として、かなり厳しい。ぜひ劇場で観て、というアピールポイントに乏しい。鑑賞はお薦めできない。2回目を観るとしたら個人の興味より、今回書いた感想の確認のために渋々観るかもしれない。