新生メロディアがショスタコーヴィチの生誕”110”周年を記念して発売した交響曲全集ボックス(10枚組 MEL CD 10 02431)から、今回は交響曲第14番の話です。このボックスは、現在音楽配信サイトSpotifyでも無料配信されています。コレクション用途にも何かと便利なので、まずは配信サービスの利用がオススメです。
(2023/7追記:各種リンク、目次や見出しを追加・修正)
(2020/7追記)MelodiyaがSpotifyなど、サブスクリプションでの音源配信を停止した様子。※NMLのニュースも参照。残念だが試し聴きしてディスク・音源を購入、の流れはまだまだ残りそう。ただ、記念ボックス収録の第14番もまだ配信で聴けます(後述)。
(2020/9追記)記念ボックスのSpotify配信も再開されました。※NMLの配信停止は継続。
・序のリンクはコチラ。
・各交響曲へのリンクはコチラ:
平然と第14番、平然とショスタコーヴィチ
第14番は”ショスタコーヴィチの楽しみ”として、なかなか良い線行っていると思う。声楽含めた音響に、編成の妙味も聴き逃がせないだろう。第13番では世評にやや水をかけるような書き方をしたので、自重したわけではない。そういう意外なとっつき易さも、ショスタコーヴィチの魅力だと言いたい。個人的にはよく比較されるマーラーの『大地の歌』より、聴き入るのは第14番だったりする。用いられた詩についても、悪口雑言の限りをつくしたものもあって、翻訳を知って苦笑したことを思い出す。
これまでの記事でさんざ書いてきた、交響曲全集を聴く意義やショスタコーヴィチの他作品に親しむこと⋯聴けば「あ、ショスタコーヴィチだな」と聴衆に認識されること。そうやって現代を生きた作曲家の曲が着々と”古典”への道を進んでいるのかな、などと贔屓目に紹介したくなる曲である。
ただ第13番と同様、作曲経緯等は各自興味をもって調べてもらったら十分ではないか。多分私が付け加えることは、ない気がする。そうそう、初演時はアクシデントや独唱者で揉めたんですって? それならいっそのこと、頼める家族がいればよかったのに。そんなことを想像してしまう、娘ガリーナが大学卒業時に就職先で困っていた際のショスタコーヴィチのことばを引用。次の第15番はマクシム初演ですから、ね。
お前が歌い手だったら、父さんがちゃんと就職先を見つけてやれたのに⋯⋯。まったくどうして生物学部なんか行ったんだ!?
(『わが父ショスタコーヴィチ』 音楽之友社 P.149)
ディスコグラフィ
記念ボックスに収録されているのは、バルシャイ指揮モスクワ室内管弦楽団の演奏。といっても、かつてビクターで国内盤が発売されていたスタジオ版ではなく、「これを正規発売するんですね」の69年モスクワ初演ライブの方。ライブのざわつきはあるものの、ほとんど気にならない、澄んだステレオ録音。なぜコンドラシンやムラヴィンスキーの録音をこのクオリティーで⋯という話は置いておいて、ソリスト含めた各パートの音もキレキレである。そして独特な立体感がある。
(2020/7追記)Melodiyaの配信は停止したものの、同じ音源は聴ける。むしろスタジオ版を正規で聴きたかったのだが⋯
(2023/7追記)記念ボックスはSpotifyの配信が再開されてから、同じ音源の別配信が一部公開になったので削除。正規で聴けるうちにどうぞ。
この特徴がさらに顕著で、演奏の疵をなくしたのがスタジオ版(ビクター)。各楽器、声楽はクッキリ捉えているものの、やや音場感に乏しいか。それにしても、当時のメロディアの録音でこんな評が書ける音源が存在するとは。
バルシャイもショスタコーヴィチの伝道師として、他にも第14番の演奏・録音が残っているので、各種楽しんでもらいたい。配信でも楽しめる。
(2023/7追記)配信は一部音源のみ公開に。残念。
新しめの録音で結構好きなのがウィッグルスワース指揮:BBCウェールズ・ナショナル管弦楽団の演奏(BIS)。これは胆力あるオーケストラの鳴りっぷりが良い。そして少なくとも音の割に素っ気なくて面白みがない、なんてことはないと思う。第2楽章なんて堂々たるものだし、第7楽章は録音が暗く深い音楽の振幅をよく捉えている。全集はボックスにしないのかな。
(2023追記)一部SACDで発売されていた音源が全てSACD化の上、全集ボックスとして発売された。上記CDもSACD化。
室内楽の雰囲気を漂わせて手堅くまとめているのが、バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルの録音。CBSに残したスタジオ録音はバーンスタインの録音評にありがちな、「曲よりもバーンスタインを聴く」といった雰囲気が、案外ない。現代曲を指揮するストコフスキーのスタンスと同様、曲の魅力を損ねないよう苦心しているように私は感じる。だからこそ繰り返し聴くに耐える。
現在LPでしか聴けない音源から、ラザール・ゴズマン(リーダー):レニングラード室内管弦楽団の演奏(Melodiya、ビクター国内盤LP(VIC-2069)あり。参考までに独唱はドルハーノワ(S)、ネステレンコ(B))。これはLP収集していて久々のアタリ。実はバルシャイが指揮した録音より気に入ってたりする。
国内盤LPの解説によると、レニングラード室内管弦楽団は指揮をおかない、そうですよ。ゴズマンは他のショスタコーヴィチ作品の録音でも見かける演奏家。
第1楽章冒頭からして神経質なところがなく、さらっと音楽に入っていて「おっ」と思わせる。そしてふくよかで艶のある弦セクション。低弦の深みも良い。他の録音が表現する冷たさ・暗さとは異質の、しなやかで美しい演奏。これをそろそろ復刻・配信して欲しい。
余談ですが、ビクターはLP時代発売した音源を割とCD化しているのですが(バルシャイの第14番もそう)、こういうCD化漏れがちょくちょくあるのね。ショスタコーヴィチ作品では他に、コーガンがソリストのヴァイオリン協奏曲第1番(1962 Melodiyaのスタジオ録音)も漏れていたりする。
⋯ですがコーガンは今年ようやく、新生メロディアがやってくれました、正規復刻。これでロシアンディスクやVeneziaのCD、果てはLPを探さず、聴けるというもの。嬉しいなあ。だからこの第14番もお願い。
(2020/7追記)コーガンの録音集もまだ配信中。ディスクにもなってるんだなあ。私はコーガンの演奏はどれもというわけでなく、録音や曲によりけり。
明日は交響曲第15番です。