デジタルエンタテイメント断片情報誌

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ベートーヴェンの交響曲と日常03:小林研一郎

今年はいつもの年末とは違う、と残念ながら思う。日頃から世を取り巻く問題に自分が何かしら影響を与えているとは、記事の発信頻度から考えても到底あり得ないことかと思う。一方の私は世の状況に、大いに影響を受けた。特に日常で、趣味の音楽を聴きたいという気分が二転三転した。半年前など、聴きたくない時もあった。最近になって、ようやく色々聴きたいと思えるようになってきた。

とは言え、この年末など、ベートーヴェンの第9を聴きに行く気分にどうもなれない。制限されていない娯楽に惹かれて、多少は外出をしたが、どうもこの行事が”年末の締め”という心境に至らなかった。まだまだ、世の中に起きていること、蔓延していることを意識せざるを得なかった。

だが、そんな状況だからこそ不変の存在を確認したいという葛藤も相変わらずある。取り敢えず年末は自宅で第9でも、いや第9と言わずベートーヴェンの残した交響曲を聴くことにしたい。

※前回の記事:

小林研一郎のベートーヴェン交響曲全集

演奏会では満足したことが多かったが、豊富な録音を漁る気にはどうもなれなかった。そう、ほんの興味で買った録音に、あのひたすら唸り続ける指揮者の声が入っていた時の興醒めといったら。演奏会では気にならないが、録音であれだけ声が持続されると、音楽を聴いているのか唸り声を聴いているのかわからなくなる。実演で良いものが聴けるし⋯そういう思いで長らく後回しにしていたのが指揮者・小林研一郎だった。

この小林研一郎がチェコ・フィルハーモニー管弦楽団を指揮したベートーヴェンの交響曲を遅まきながらSpotifyで聴いた。これが、オーケストラの音色から解釈、録音の状態と、高いレベルでまとまっていて大変素晴らしい。

Spotifyでは3番、8番、9番以外は全曲聴ける。もちろん極上の録音でCD(SACDハイブリッド)も発売されている。私など気に入ったのでCDで全集を揃えてしまった。指揮者が現役で活動し、日本で実演が聴けるからなのか、この録音が話題にならないのは口惜しい。私自身も少し反省している。



オーケストラを存分にドライブし、迫力には事欠かない。音楽の流れが止まるような鈍重な音運びはなく、かと言って音楽が縮こまるようなせかせかしたテンポでもない。心地良い音楽の流れが堪能できる。徒に音楽に表情をつけ、見得を切るような解釈はしない。ときに柔らかく、ときに地の底から響くようなオーケストラの音色とホールの音響が絶妙である。チェコ・フィルを聴くなら、かつての名指揮者・名録音も結構だが、今にも目を向けてもらいたい。Spotifyで全曲聴ける第1番、第2番、第4番~第7番、皆お薦めである。特に私が気に入っているのは穏やかな解釈と温かみを感じるオーケストラの音色が癖になる第4番・第6番。CDで聴いた第8番・第9番も良かった。

上記全集での指揮者の唸り声について補足すると、第3番、第7番、第9番辺りで比較的入ることがあるが、従来を”耳障り”だとすると、本当に気にならないレベルである。これくらいなら他の指揮者でもあるよな、という程度になったと思う。とは言え、第3番はそれなりに”唸っている”か。だがむしろそれらがほとんど気にならない楽曲の方が多く、もしかつての私のように気にしていた御仁がいたら、まずは試聴して確認すればよいと思う。音楽配信様様だとつくづく私は感謝している。

※第3番であれば、再発されていないハンガリー国立管弦楽団との演奏がSpotifyで聴けるようになっている(素晴らしい!)。こちらもなかなか良い演奏で、唸り声も気にならないと思う。

<2021/7追記>
ついにベートーヴェン交響曲全曲が聴けるようになった。素晴らしいこと。オクタヴィア・レコードの意気に感謝。
<2022/4追記>
と思ったらまた聴けなくなった。サブスクのこういうところは致し方ない。残念。やっぱりディスク所持が保険なのだなあ。


暮れにベートーヴェンでも聴いて、また来年以降、この感動が、音楽がどういう風に聴こえるのか静かな楽しみにしたい。いや、楽しみであってほしい。

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