デジタルエンタテイメント断片情報誌

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海外の演奏から聴く「ゴジラ」

毎年7月にアメリカのシカゴ郊外で開催されている、「G-Fest」という世界の怪獣ファンが集う祭典がある(詳しくはこちらのニュースでどうぞ)。この祭典で2014年、15年と特撮映画音楽のコンサートが催されたのだが、そこで2014年の生誕100年、今年の『シン・ゴジラ』公開で盛り上がりが続く伊福部昭の音楽を大々的に取り上げており、演奏がまた味わい深く面白い。しかも伊福部昭のみならず、大谷幸の音楽まで演奏しており、ファンにとって何かと聴き逃せないものだと思う。

ということで今回はこのコンサートを収録したCD、『Ifukube 100: A legacy Of Monster Music CD』 (2014)、『Symphonic Fury! The Music of Japanese Monsters』(2015)の紹介をしたい。また発売情報だけではファンの端くれとして味気ないので、演奏の中身についても軽く触れておこう。

まず演奏が何処で聴けるのかというと、Genesis 54というサイトで演奏会のCDが通信販売で買える(サイトには他にも、ポスターや伊福部昭をデザインに加えたグラス等が購入できる)。私が現在調べた限りでは、ダウンロード販売が見当たらないので、ここでCDを購入するのが唯一の聞く手段かと思われる*1

購入方法は、ごく一般的なアメリカ(海外)の通信販売の利用手順に倣っておけば問題ないかと思う。もちろん、万一の時の対応等は自己責任でお願いしたい。CDは各30ドルで、日本への配送料が18ドルくらい(現時点)なので、代金は三千円プラス二千円程度といったところか*2。買う時は各自為替レートを確認して欲しい。注文してから到着の日数だが、私が注文した時は約1ヶ月かかった。これも海外通販ならギリ許容範囲か。ちなみに注文してから発送の連絡はなかった。まあこれも海外通販なら日常茶飯事ではないかな。


まず、『Ifukube 100: A legacy Of Monster Music CD』。伊福部昭が音楽を担当した歴代ゴジラシリーズの演奏なのだが、演奏内容は少々苦しい所がある。採譜を自主的に行なっているのか、明らかに音程が外れている箇所が散見されるのだ。ゆったりとしたテンポを基調とした演奏や、各セクションの技術は聴けないものではないが、それだけに惜しい。こちらはコレクターズアイテムとしての価値優先になるかと思う。


一方、『Symphonic Fury! The Music of Japanese Monsters』は素晴らしい。大谷幸の平成ガメラシリーズの演奏なんて、ハリウッド調というか、これまで慣れ親しんだ音に独特の柔らかさが加わり、 聴き物。サントラだけでなく、新しい音源を所望していた御仁は是非。しっかり3部作を取り上げているのも◎。

そして伊福部昭。古典風軍楽『吉志舞』に『SF交響ファンタジー第1番〜第3番』。SF交響ファンタジーを全曲取り上げるのもさることながら、『吉志舞』を演奏してくれた(しかも管弦楽編曲版)ことに大いに感謝し、喜びたい*3。木管楽器を中心とした柔らかな音色から始まって、あの「ドレミファ〜」のところは悠然とした仕上げで、これまで聴いた『吉志舞』の演奏とは少々趣が異なる。弦楽を追加した編曲が良くハマっている。個人的に飽きのこない演奏になっていて、繰り返し聴いていたりする。

ちなみにこのCDの録音、各セクションの音はよく捉えているし残響が耳につくわけでもないのだが、定位とは違った、音が一点から広がるような感じが一般的なサントラやクラシックの録音に慣れた耳だとかなり独特。耳をつんざくことのない、柔らかい音作りが印象的。演奏も破綻なく、海外の管楽器はやっぱり上手いなあと思うことしきり。

『SF交響ファンタジー』の第1番〜第3番は、オーケストラの安定感に加えて、テンポ設定が絶妙。過去の録音に近いものがあるか敢えて言うと、佐藤勝が指揮した『ゴジラ〜シンフォニック・コンサート〜ゴジラ生誕40周年記念盤』に印象が近い。あの演奏よりもオーケストラの状態が良く、さらに指揮者の解釈で上手く迫力と緩急を加えている感じ、といったら伝わるだろうか。また、他にも過去の録音を意識したような演奏箇所があり、ファン人気の高い佐藤勝指揮のCDをはじめ、ぜひ聴き比べも薦めたい。

さて『Symphonic Fury!〜』の『SF交響ファンタジー第1番』は、ゴジラのテーマが「平成シリーズ」寄りな、ゴジラの巨大感がよく出た演奏で始まる。最近は初代「ゴジラ」(1954)を意識した、「ドシラ、ドシラ」のラが短く、急いている演奏が何かと多い気がするが、これはちょっと嬉しかった。後半の「宇宙大戦争」〜「怪獣総進撃」のマーチ部分も落ち着いたテンポで聴かせる演奏。実は原曲もそんなにアップテンポじゃないのだな。

それでいて『SF交響ファンタジー第2番』のキングコング格闘音楽は、「VSキングギドラ」のテンポで飛ばす飛ばす。打って変わって「聖なる泉」はウットリするような響き。最近、特撮音楽に限らず、伊福部音楽の「美しさ」にハッとすることが多いのだが、そういう魅力をよく引き出している。後半のL作戦マーチ、このマーチが好きな御仁はぜひ聴いて欲しい。スネアとともにつんのめり気味な前半から、管楽器と弦楽器の交錯する後半の切り替わりが絶妙。マーチ後半は繰り返しが1回多い*4

『SF交響ファンタジー第3番』もまた「キングコングの逆襲」愛のテーマがひたすら美しい。今後伊福部作品が海外で演奏されるときに、着目すべき特徴として気に留めておきたい。輸送の音楽は打楽器(トムトムか)が目立つせいでちょっと忙しない。それでも「海底軍艦」〜「地球防衛軍」の流れは良い。「地球防衛軍」は録音も相まって、管楽器がこんなに歌う曲なんだな、と改めて思いながら締めくくられる。

(2017/6追記)
指揮のJohn DeSentis氏がなんとYoutubeに『吉志舞』、第1番~第3番の演奏を公開しているようなので紹介しましょう。これを観るかぎり、どうもCD収録の「第2番」・L作戦マーチは編集ミスなのかな。通常通りの演奏ですね。

※画像をタッチ・クリックすると動画(YouTube)が再生できます。




*1:ダウンロード販売があれば追記したいと思います。

*2:日本でもこのCDを少量取り扱っているショップがあるようですが、代金は同程度か、若干高めのようです。そういうショップを使うか、個人で購入するかはもちろん自由です。個人的には、今どき海外通販に億劫になる理由はなかったので注文・紹介しました。

*3:『バーレスク風ロンド』じゃないところが粋ですねぇ。

*4:小松一彦指揮の第1番も「怪獣総進撃」マーチの繰り返しが1回多かったですが、いずれも指揮者の好みなんでしょうかね。

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