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邦画と特撮、アニメに寄せて 映画『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』の感想

先月8/29(金)から公開されている映画、『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』(公式サイト)の感想です。細かいネタバレは書きませんが、鑑賞した人向けの内容です。あまり宣伝を見かけませんでしたが、映画館で予告を見て観に行きました。既に名の通った古典を題材とした作品は、時に「原作の解釈がちょっと」「そのまま映像化した方が」みたいな話題に終始することもありますが、果たして本作はどうでしょうか。

※画像をタッチ・クリックするとPV(YouTube)が再生できます。

『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』の感想

『不思議の国のアリス』を知っていれば楽しめる要素はもちろんある。これは、というキャラクターも登場するし、会話のノリもクスリとするのではないか。アリスってこんな作品だったよな、というイメージが湧き立つ点は原作をちゃんと咀嚼していると思う。

だが、本作の主眼はそこではない。現代における青春論がテーマなのだ。今時の、人との、社会との関わり合いだ。原作に即したアニメーションの表現に終始してお茶を濁したような作品では決してない。そこは良い意味で期待を裏切ってくれると思う。

大学卒業を控える主人公は突拍子もない夢があるわけではない。人間関係に苦しみ、想像を絶する孤独にさいなまれているわけでもない。作中での鍵になるものの、過去の辛い出来事が物語の発端でもない。日々の生活の中で、個性や能力をアピールする場面が増える一方で自身の趣味嗜好や本質を忘れかけ、世間との距離感や承認欲求の波にも翻弄されつつ、ぼんやりとした将来への不安を抱いて生きている。これらに向き合い対峙するための道標を『不思議の国』で主人公が、観客が問いかけられる物語に仕立てられていて、月並みだが終始感心した。アリスが主人公ではない意味が、本編を見ればわかる。感想を書くときに子どもに見て欲しい、などと安易に勧めたりしないようにしているが、大人向けの作品だと思う。だが、子どもが今わからなくても将来鑑賞し直したときに、ひょっとしたらハッとする作品かもしれない。

本作が優れているのは、この主眼がブレないように、『不思議の国』へ導かれるシステムや仕組みを作中で披露したり、説明することは極力省いて尺を割いていないところであることも書いておきたい。むしろこれが原作さながら、といった趣すらあるのがニクい。それでいてラストのオチはまさに現代らしい片付け方で、少し前進した主人公と相まってバーチャルな世界との境界線が一瞬わからなくなるような後口がなんとも心地良い。

演出面では、過去の回想といった場面で、安易な泣きシーンがないのが何より素晴らしい。徒に泣き叫ぶ芝居を引きずったりしないのが良い。登場人物の心情や境遇に寄り添ったとき初めて、観客が感極まればいいのだ。大げさかもしれないが、この演出の配慮からして凡百の映画ではないと思った。また最近の作品としては音楽・音響の演出も小気味よい。気味の悪いシーンがちゃんと気味悪く表現されている。キャストの演技も申し分ないのではないか。地に足のついた演技で、アリスはじめ違和感がなかった。映像は最近のオリジナルアニメ作品のクオリティに十分達している。


作品の評判が広まって欲しいのは山々だが、できればネタバレなしで観に行ってもらいたいところだ。こういう切り口もアニメ映画に残されたポテンシャルの一つかと唸った。上映されている間に再度鑑賞したいと改めて思った。


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