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邦画と特撮、アニメに寄せて アニメーション映画『ジョゼと虎と魚たち』

時期的に相応しい映画、というのか、12/25から公開の映画『ジョゼと虎と魚たち』(公式サイト)を観てきたので感想です。ネタバレは一応あり。今回は原作の小説についてもネタバレします。珍しくどちらも語ります。原作には事前に注目しましたが、それ以外のスタッフ等には特にリサーチ、期待するでもなく。ただ予告編のビジュアルには惹かれました。

※画像をタッチ・クリックするとPV(YouTube)が再生できます。

原作小説を読んだ上での鑑賞・感想ですか? 答え:はい

原作がある映画についてはこのトピックを入れることにしているのですが、大方原作を知らないことばかりでした。ですが今回は原作小説を読んだ上での感想です。原作は田辺聖子の短編小説。

ちなみに私は田辺聖子の良い読者ではありません。パッと思い出すのは、源氏物語の感触を掴みたくて読んだ『絵草紙源氏物語』(角川文庫)くらいです。登場人物の情感の描き方は嫌いじゃない、という印象でした。

絵草紙源氏物語 (角川文庫)

絵草紙源氏物語 (角川文庫)

小説は収録されている短編集のタイトルにもなっているので探しやすいかと思います。既に実写でも映画化されたことがあるせいか、古本でも手に入りやすいです。収録作品の設定は時代を感じるものですが(ハイ・ミスなんて言葉も出てくる)、心情描写は今に通じる作品群です。『ジョゼ~』以外では、『うすうす知ってた』が良かったです。

ジョゼと虎と魚たち (角川文庫)

ジョゼと虎と魚たち (角川文庫)

収録されている『ジョゼ~』は本当にごく短編です。読むのに半日、いやもっとかからないと思います。ですが映画を観る前に読み、観た後で好みを書くなら、私は原作。さすが原作、田辺聖子というべきか、映画を凌ぐ「甘さ」が心地良い。

原作は淡々としているのです。設定や状況説明も短編故に駆け足。ジョゼの感情の起伏も、恒夫の人となりも、映画に比べると本当に穏やかで平凡。強烈なイベントもありません。登場人物もほぼジョゼと恒夫の二人だけ。二人の関係が、ただ時を経る。その生活感と現実感が、登場人物を地に足のついた輪郭にしています。退廃的では決してありません。そこが巧い。

それでいて、原作は甘い。デコレーションしてゴテゴテのカラフルな甘さではなく、澄んだ甘さ。原作ならではのジョゼの可愛らしさといじらしさは、映画を楽しんだ人が後で原作を読んでも損はないと思います。設定面でも楽しめます。原作を完全再現する必要はないですが、将棋を指すところなんて観たかった。

もちろん原作で登場する台詞や設定は映画でも出てきます。でも、特に台詞は登場するシチュエーションが異なります。映画のラストの台詞なんて、私は原作の方が生々しくて興奮しました。

といったところで、映画がどうだったかというと⋯。

映画『ジョゼと虎と魚たち』の感想

既に原作小説の感想も書いたが、映画の内容は翻案と言ってよい。原作を読まなくとも楽しめるし、映画は映画でちゃんと面白い。土台はあるが、登場人物とその設定、話の筋も構成も異なる。

恒夫とジョゼが出会ってからのついたり離れたり、浮き沈みは内容自体目を見張るものではないが、ファンタジーにならず、かと言って現実的過ぎず、二人の恋愛の行く末に没入できる。車椅子やジョゼの生活といった要素を大々的に、社会的に扱うことはない。また、本作は主人公二人を取り巻く人物の優しさが良い。この世界を成り立たせるため、主人公二人と世間を繋げ、広げるに丁度良い配置だと思う。作品に余計な不快感を加えない、存在意義のある設定とキャラクターである。

全編に渡って満足度の高い内容だったが、ラストに向かう流れだけが、少しまとめかねたかな、という印象。ここだけが本当に惜しい。映画オリジナルで、冒頭の出会いと同じシチュエーションになるのだが、もったいぶりすぎた。この箇所こそ原作の雰囲気のように、サラッとした行き違い程度(映画としてはそれなりに盛り立てて)から、一気に締めても安堵や爽快感を得られたと思う。

映像面やCGについては言うことなし。アニメ映画ならこのクオリティが当然、という程度に望みたくなる。海や海洋生物の描写はアニメ映画の見せ場の一つ、という感があるが、難なくこなしている。何よりキャストの演技は大変素晴らしい。創作における方言として、台詞の自然さに驚いた。配役も全く問題ない。大げさだが、声や演技が鑑賞を邪魔しないことは保証する。最近私が観ている一連のアニメ映画で最も良かったのではないか。

原作との出会い含めて、観たかいあった映画だった。

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