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邦画と特撮、アニメに寄せて 映画『果てしなきスカーレット』

11/21公開のアニメ映画『果てしなきスカーレット』(公式サイト)を観たので感想です。一応ネタバレはあり。予告とビジュアル以外は特段情報を入れず鑑賞。公開前に盛り上がっているという印象もあまりなかった気がします。今作の監督が近年発表している映画は一通り観ています。特にここ数作は肌に合わない部分が多いものの、何かしら印象に残るシーンや展開を期待して。

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映画『果てしなきスカーレット』の感想

知名度がありそうな制作陣で過去作もTV放映されているので作品名を出すが、序盤は『竜とそばかすの姫』よりは自然な導入になった。自然というのは、世界観をまくしたてるような忙しさがなくなった。やはり、鑑賞を進めれば作品世界が掴めるのが望ましいと思う。ただ、2作続けて嘔吐の描写を入れているが、自作品の伝統的なシーンにでもしたいのかという趣で疑問が残る。インパクトを狙っているのならそうでもないし、無駄に汚い演出のようでならない。たとえ子供でも、こういう同じようなシーンの連続登場というのは憶えているのではないかと思う。

今作は中世・ファンタジー路線で、一体どこに現代、現実世界を絡めるのかな、と序盤は一瞬思った(後半で悪い意味で期待を裏切られる)。とはいえ知っている向きなら序盤の筋や登場人物お披露目は、ああシェイクスピアが元ネタか、と苦笑するのではないか。題材を古典に求めるのは別段珍しくはない。邦画でも古典を翻案し換骨奪胎し⋯というのは昔からある。むしろついにそういう題材の頼り方に舵を切ったか、という印象が勝った。

それを差し引いても、序盤から良く言えばわかりやすさ重視、悪く言えばミエミエの筋で萎える。多少なりとも映画やドラマが好きな向きには「ここはうまく行かないだろうな」という予想が尽く当たるのではないか。これは作品を通じて同様で、復讐を目指す主人公の心の移ろいも含め、ともすればラストまで読めると思う。特に昨今の日本のアニメ映画は、多少なりともハッピーエンドで終わらなければ、という呪縛があるのではというフシすらある。鑑賞していて話の筋に夢中になる瞬間が、ほぼないのではないか。

主人公の旅の始まりにあって、中盤の看護師の介入はメアリー・スー、昨今でいう所謂「なろう系」風味である。流行りを(今更)取り入れたのか、制作側の、俺たちならこう料理するアピールなのか、いずれにせよキャラクターの造形は今一つだった。作中に存在させることで、現代に起きる突然の悲劇の風刺だけでなく、現代的な、人命救助による人の繋がりや結びつきを示したいという意図は理解する。だが、色んな時代の人間がいるという設定であれば、例えば看護師以外にも看護師と同時代の人物を登場させた方が説得力は俄然増したと思う。台詞では説明していたが、おかげで終始存在が浮いていた。物語のキーとしても超然とした存在過ぎるし、中盤は幾多の危機に見舞われても都合よく生き延び過ぎる。主人公と心を通わせる場面もベタでクサい展開の印象が勝り、想像の域を超えない。

さらに看護師は舞台となる世界に迷い込んで、終盤にどのような適性を見せるのかと思っていたら、いつのまにか弓矢の使い手になっており、そういう過程は作中で描写しないのだなと鼻白んでしまった。最近リマスター上映されたので敢えて引き合いに出すが、これが『七人の侍』のような設定であれば、まあ武士だし、説明なしで使えても納得はするのだが。主人公の味方としては、終盤の側近2人の登場も唐突感アリアリで萎えた。協力を得られるという伏線はわかっていただけに、もう少し何とかならなかったのか。

七人の侍

七人の侍

  • 三船敏郎
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また、昨今のアニメ映画の動向に詳しいものでもないが、そんなに歌やダンスのシーンを作中に入れたいものなのか。今作の話の筋から特段感動するものでもなかったし、現代でのダンスに関しては残念ながら映像の魅力もさして感じなかった。冗長な上に、観客が心ときめくシーンでもなく、作中の人物だけが感極まる、拙い演出と映像である。動きや衣装を見せたいという意図も感じられず、これまで映像面も売りだっただけに、正直クオリティの低さに驚いた。演出面で言うと、移動の描写も無駄が多いように感じた。大変さを表現するのは一瞬で効果があるように思う。ましてロングショットや演出に凄みを感じるものでもなかった。他に本筋で描きたいものがないときの時間稼ぎすら疑ってしまう。演出といえば、メインタイトルを最初と最後に出すのは、あまりに広まりすぎてもはや効果がないと思う。

何より今作は、特に終盤にかけて、作品全体を通じて現実世界の戦争や無慈悲な事件とのリンクや風刺を感じる要素を盛り込んでいながら、「紆余曲折はあったものの、結局、悪い王はいなくなりましたとさ」という締めくくり以上に胸に迫るものがなかったことが痛恨である。主人公始め、どの登場人物に感情移入するでもなく、否定するでもなく、作品が終了してしまう。


感想や考察の類の記事で、作品の読みの深浅といった話になることがある。だが自説を喧伝し、細部を持ち上げて作品の全体としての評価をないがしろにしてまで肯定的に捉えて曲解することはないだろう。無理に、いや、そもそも深層がないのに深層を探ったり作り出す必要もないと思う。古典や他作品を引き合いに出すまでもなく、いや引き合いに出す以前に面白みが足りない、評価に値しない内容というのはやはり存在するのではないか。作品の評価には「その程度の作品」という見方をせざるを得ないときが、どうしてもある気がする。

近年は何かと「好き」で「ポジティブ」に捉え、また、悪いなら直接的でなく趣向を凝らし、ファン層、あるいはアンチにも配慮して表現する。そんな現代のステータスをまとめた本すらある。そういった発信は、一時は注目され、「バズる」かもしれない。そういう発信をして反応を得ることを楽しみにしているような向きに強弁してまで否定する気もない。だが作品が配信なりディスク化されれば、定まった評価はいずれ表出すると思う。

主人公の予定調和の苦しみと、予定調和の開放。残念ながら今作は、映画としての起伏がない。印象に残るシーンというのもない。作家性もとりわけ感じなかった。演出面、題材、あらゆるものが過去作よりも冴えていない。口コミやグッズで観客を呼ぶにも厳しいかと思う。オリジナル作品とはいえ、もう少し有能なブレーンなりスタッフを外部から入れた方がよいのではないか、と要らぬお節介を書きたくなる。語るに落ちる作品に成り下がってしまった。全国規模で上映する作品にしては、鑑賞していて苦しかった。


キャストの演技は、看護師が抑揚なく今ひとつだったように思う。キャストの歌は悪くないが、残念ながら今作の内容で感動を喚起するまでには至らなかった。余談ついでだが、ドラゴン(?)は顔が『ゴジラVSビオランテ』のビオランテみたいだと思ってしまった。同じ東宝だからいいか。


いずれ地上波で放映されたときに、もう一度くらいは内容の確認で鑑賞するかとは思う。


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