デジタルエンタテイメント断片情報誌

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邦画と特撮、アニメに寄せて 映画『君たちはどう生きるか』の感想

7/14公開の映画『君たちはどう生きるか』を観てきたので感想です。ネタバレあり。個人の体感ですが、事前に宣伝しないと「上映してたの?」という人が公開後身近に結構いました。この戦略が功を奏したかどうか、商売のことは私には関係ないものの、日々スマホやPCを使う昨今でも興味や関心のアンテナは案外高くないものですね。

※画像をタッチ・クリックすると海外予告(YouTube)が再生できます。

映画『君たちはどう生きるか』の感想

制作の知名度を考慮して、過去に発表した作品の鑑賞を踏まえた感想にしたい。

まずアニメーションに関して、このジャンルにまだ表現の余地が残っていることをまざまざと見せつけてくれる。冒頭の空襲や火災、火の表現は圧巻の一言。火傷しそうな熱風や炎、眩しさをここまで描けるのかと感嘆した。中盤の帆を操るシーンのきめ細やかさもしかりだ。現代のアニメーションでこういう画に挑む作品が一体どれだけあるだろうか。ちょっと思い当たらない。

ただ意図的なのか、中盤から後半は既存の文芸作品やイメージを匂わせる画が多い。それもオマージュに留まらない昇華や換骨奪胎というものではなく、既視感が先行してしまう種類のものだ。ズバリそのものでなくとも、「まるで○○(作品名)みたい」といった感想が思い浮かぶ。それが本作では残念ながら、新規の映像に対峙する楽しみを減退させてしまった気がする。

例えば主人公が迷い込んだ世界はルイス・キャロルのアリスシリーズのそれであり、動物との戦いならチャイコフスキーはじめとした『くるみ割り人形』であり、鳥が人を襲う恐怖はヒッチコックの『鳥』である。元ネタ探しなら、それはそれで興味深いだろう。

また個人的に、本作の公開前に出版された江戸川乱歩の『幽霊塔』を読んで、今度の新作は朽ちた屋敷とその秘密を描くのかなと、予想していた。事前の宣伝はなかったが、公開日に劇場で「やっぱり」と思った観客は案外いるのではないか。

次にストーリーや演出に関しても、全体的にとりとめのない印象を受けた。

作家(監督)の独白、心象風景だと言えば聞こえが良いかもしれないが、展開に起伏や伏線の妙味は期待しない方がよい。舞台は現実世界の日本でありつつも、決してリアル志向ではない。導入からして「不思議な世界へ迷い込む」というファンタジーの王道である。それなのに、テーマを盛り込みつつ、作品を如何に面白く魅せるか、この点において本作はかなり上手くいっていない。

単に「作品のテーマを読み取り解釈することが困難だからつまらない」、というわけではない。映像面でのイメージと同様、正解でなくともたぐる糸口はある。例えば世界観はウロボロスの蛇なのかな、それならば生と死、破壊と創造は作家自身のことで、迷い込んだ世界が広いようで広がりを感じないのは個人の真理だからか、そんなことを考えながら観る余地はある。観客の数だけ、これが正解、でなくてもよい。

むしろ盛り込んだテーマに無数の答えを求め過ぎたがゆえに、作中の登場人物や心理描写の軸が安定せず、結果として作品に振り回されたのではないかと思う。そのせいで大切な人を助けたのに、元の世界に戻ったのに、それらが鑑賞後の余韻に寄与しなかった。有り体に言えば、「やりたい画」が先行して、その他必要な筋の通ったエンタメ要素がおざなりになってしまったのではないか。それが原因で、シーン毎に断続的な印象を与えているのではないか。


とりわけ本作では、「目的のために移動する」シーンがつまらなかったことが痛恨だ。飛び石を飛んだり、走るシーンは比較的多かった。だが、場面の繋ぎ以上に移動を描くことに意味を持たせるか、移動の画を省略してまで描きたいことが他にあるか、どちらもできていない。あまりに淡々としている。

これまでの作品を例に取れば、『天空の城ラピュタ』でパズーがラピュタの内部をよじ登ったり、

『千と千尋の神隠し』で千尋が配管を伝って走ったり、

いずれも登場人物の意志や行動の理由がひしひしと伝わるシーンだった。月並みだがハラハラ、ドキドキした。音や音楽含めた演出も面白かった。欠くことのできないシーンだと思った。色々なことを書き連ねたが、本作ではそんな古典的な、いや基本的な面白さが物足らなかったので、がっかりしたのかもしれない。


最後に音楽について。作品の「とりとめのなさ」に影響されたのか、本作ではいまいちピンとこなかった。主題歌も感銘を受けなかった。他の映画にも言えるが、お決まりのようにエンディングに主題歌を入れなくともよいのにとつくづく思う。商売を考えてのことだろうが、映画を構成する要素である以上は検討の余地があるだろう。余談だが定番の食事シーンも同様だ。アニメ映画で食事の描写に力を入れる風潮を生み出した元祖、だとしても本作は取ってつけた感がひどく、残念だが必然性を感じなかった。そろそろこの風潮も終焉でよさそうだ。


今劇場へ急がなくとも、一度は地上波で放映されるはずなので、次観るのはその時だと思う。


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