デジタルエンタテイメント断片情報誌

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年の初めに『空の大怪獣 ラドン』(1956)4Kデジタルリマスター版の感想

現在開催中の「午前十時の映画祭12」で『空の大怪獣 ラドン』・4Kデジタルリマスター版を観てきました。本作は久々の正月興行でしょうか。『モスラ』に続いて楽しみにしていた作品。空飛ぶ怪獣の作品が続きますね。まあ、ゴジラも空を飛べますが⋯。

今回は映画館での体感・4K版の映像諸々についてと、せっかくなので作品の感想も。

改めて、既に各種メディアで観られる作品なのであらすじ列挙はなし。鑑賞した人向けに書きたい。念のため、今回の4K版で従来と話の構成が変わったりはしていない。

ホラー調で進む序盤は構成もさることながら、元々の画が良い。今回発色が良くなり、明るい場面がより鮮明になった。汚れや汗、死体までもが生々しく、撮影やセットの質が図抜けていることがわかる。一方で、書割もハッキリクッキリになってしまうのはご愛嬌。この辺り、DVD化された時点でかなり鮮明になったと思っていたが、その印象の上を行った。あまりに何もかも「見え過ぎる」のもちょっと⋯というのは独りよがりか。

話の展開は結構早い。メガヌロンの正体も引っ張るのかと思いきや早々とお目見えだ。メガヌロンは人間相手だと結構強いのだが、あくまでラドンの前座である。洞窟でのラドン誕生シーンも昔は怖かったが、今観ると広々としたセットに感嘆してしまう。広い空間を使った演出ができているので、セットだとわかっても違和感が先行しない。現在のほうが技術は優れているはずなのに、観る度に当時の画作りや演出に目を見張る作品だ。

ストーリーは、序盤の”正体不明の殺人鬼”までの下りが済んでからは、古典的なパニック映画の流れである。後半はラドンの暴れっぷりと、特撮を堪能するものだと思う。人類側も主人公にヒロインと配されているものの、メガヌロンやラドンの存在を盛り上げる以上の存在感や行動力を発揮したりはしない。他の登場人物も同様である。ファンが(当時の)東宝映画のキャストを楽しむには良い。

また『ゴジラ』(1954)同様、ラドン登場の背景に原水爆実験の影響を匂わせているが、本作ではやや強引さがある。ラストの演出で現代に蘇った悲劇性は感じるものの、大掛かりな害獣駆除の状況に人類が挑んだ顛末という印象だ。

一連のラドン対自衛隊に関して書けば、東宝特撮映画定番の「飛び道具のない怪獣と宇宙人には滅法強い人類」が堪能できる。航空部隊の攻撃はラドンにダメージを与えている。空中戦でラドンにやられているシーンが目立つが、通常兵器で善戦は実は珍しい。ラドンや戦闘機が飛び交うさまは、ちょっと現代の演出にないリアルさがあり、見所の一つだ。合成は今一つだが、操演が素晴らしい。”定番の”見せ方を模索している時代の方が、ある種先を行っているように思えてしまう。24連装ロケット砲やオネストジョンといったファンお馴染みの架空・日本未配備兵器も登場する。余談だが、この流れで『地球防衛軍』(1957)を観ると妙に納得する。

九州各地を暴れるので当時の風景、ミニチュアを鑑賞するのも本作の醍醐味だ。これは4Kの恩恵がある。佐世保を象徴する建造物として今も度々話題になる針尾送信所が映るが、この頃まで「かんざし」が頂上にあることがわかる。またカルピスの旧マークも看板として登場したりする。

怪奇色が強い序盤からラドンがバレエダンサーのように思えてくる登場シーンまで、音楽も面白い。こういう楽曲をライブシネマコンサートで聴きたいとつくづく思う。サントラは今容易に聴ける。良い時代だ。メガヌロンの声も入ってるよ。

以後『ゴジラ』や『モスラ』のような主役級のポジションにはならなかったとは言え、カラー・2作と違う色合いの特撮映画として意義ある作品だと思う。広く一般にも⋯とまでは言わないが、映画好きで興味があればどうぞ。

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