デジタルエンタテイメント断片情報誌

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年の瀬に『モスラ』(1961) 4Kデジタルリマスター版の感想

クリスマス・イブに映画『モスラ』(1961 東宝)を観てきました。4Kデジタルリマスター版の発表と上映が予告されており、記事タイトル通り楽しみにしていた作品。

4K版の上映情報や制作過程は下記リンクやYouTubeが詳しいのでどうぞ(※2022/1追記:YouTubeの公開は終了したようなので4K化決定動画に変更。貴重な内容だったので残念)。今回は4K版の映像、音楽の印象と、良い機会ですので作品の感想を。

※画像をタッチ・クリックすると動画(YouTube)が再生できます。

映画『モスラ』(1961)4Kデジタルリマスター版の感想

既にDVDや配信で観られる作品のため、大筋の内容を改めて書くこともしない。観てきた人、知っている人向きの感想を書きたいと思う。念のため、今回の4K版で従来と話の大筋が変わったりはしていない。

まず今回の映像は情報量が素晴らしい。YouTubeを観た限りでは、映像が少し暗いのが映画館でどうかと気になっていたが、杞憂だった。当時の作品の褪色した映像に慣れた目で観に行くと、色味が大幅に良くなった印象。衣装や乗り物、町並み等々観ていて飽きない。特撮でも幼虫モスラの体表の生々しさがアップしていて感動。本当に生きてるみたい。そう言えば、修復映像と聞くとつい操演の映りなど探してしまうものだが、4K版でピアノ線がハッキリクッキリ⋯といった箇所はなかったように思う。むしろ特撮技術の高さに「どうやって操演・撮影しているのかなあ」と改めて感服する。

復活した「序曲」を初め、古関裕而の音楽についてはぜひ映画館で堪能して頂きたい。神秘的な魅力をたたえた楽曲の魅力もさることながら、音楽が磁気4チャンネル音源で残されていたことが嬉しい。音楽もまた極彩色である。余談だが映画館だと、SEも臨場感が凄まじい。何回も観た映画のはずなのにモスラの鳴き声に少しビクッとしてしまった。


あとは内容について心に留めておきたいところを。詳しい解説や見所の列挙は先人から各種SNSまで既に溢れていると思うので省略。

子供心に良い意味で期待を裏切られた作品。私は『モスラ対ゴジラ』を観た後に『モスラ』を観たのだが、後半こんなに特撮がふんだんだと思わなかった。モスラが孵化した後に突風で壊れる河川の水道管から水が吹き出るシーンなど芸が細かい。海上の広さも、シャーマンが攻撃するロングショットも、消防車が走るシーンだって良い。お馴染みの実写を交える手法も入るが、「ここを特撮で作るのか」というシーンが多く目が離せない。

その特撮の中にあって、とにかくモスラが強くて怖い。現在の平和の使者たる以前は、弾もミサイルも熱線にもビクともしない大怪獣のイメージだったのだ。本作は防衛隊の攻撃の着弾が良く(特撮の出来が良く)、それが一層モスラの強さを引き立てる。今だに私は本作のモスラの顔に怨念を感じるが(特に幼虫)、それもそのはず、これは小美人を取り返すため一直線に東京に向かってきているからなのだ。成虫の目については円谷英二曰く、”悲しい目”である。

最後にストーリーだが、コメディタッチ有りの軽妙でテンポの良い構成で、映画館でもクスクス笑い声が聞こえたほど。だが実は本作は、水爆実験に大国主義、マスコミ、はたまた女性の社会進出と、現在に通じるテーマてんこ盛りの味わい深い作品である。『キングコング対ゴジラ』や『モスラ対ゴジラ』でもそうだが、この頃の東宝映画は世相の風刺・批判をいい塩梅に取り入れているのだ。個人的に、今より巧みかもしれない。

例えば、生存者がいないはずのインファント島で見つけた身長30cmほどの小美人のことを、フランキー堺が演じる新聞記者(福田)を初めとした調査隊の面々が悪巧みや口外しようとせず、

「別にロマンかぶれしたわけじゃないけど、こういう島はそっとしときたいような気がしますねぇ」

と漏らすシーンなど、まさに当時より情報伝達が発達した昨今のSNSでの騒動や過熱報道に求めたくなる良心のように思える。結局この後小美人はブローカーのネルソン達に捕まえられ、ショーの見世物にされてしまうのだが、個人が情報の発信から各種活動するに易い今だからこそ響いてこないだろうか。バズると思えば誰もがすぐに写真を撮り動画を撮り、SNSで呟いて動画をアップして⋯この箇所は本作を観て考えて欲しい。話の本質は古くなっていない。変わっていない。

またこのシーンはこれに終わらず、小美人のことを特ダネ記事にしなかった福田を志村喬演じる上司の社会部長が後に問い詰めるシーンがある。「記者だって人間だ、みんな人間としてそっとしておいた方がいいと思ったから」と福田が答えたのに対して社会部長が、

「俺だって人間だぞ!」

と吐き捨てるところも一筋縄ではいかない。知りたくなる、見たくなる、人に伝えたくなる、商売したくなる⋯のもまた、人間の業というわけである。モスラは善悪がわからないそうだが、なるほど人間も善悪だけではとても語り尽くせないだろう。


年の瀬の楽しみというだけでなく、特撮の魅力だけでなく、今だ光るものを残している作品のように思う。年始も上映しているようなので映画館でも、配信でも是非。


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