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映画『兵馬俑の城』の感想

6/16から全国で順次公開されているアニメ映画『兵馬俑の城』(吹替版)の感想です。ネタバレはありますが、詳細なあらすじを書いたりはしません。中国では2021年公開。最新の中国映画を日本で紹介する企画、「電影祭」で先立って字幕版が昨年公開されており、なかなか良かったのでリピートすることに。字幕版のときにはなかった公式サイトや新たな予告編もあり嬉しいことです。

※画像をタッチ・クリックすると冒頭約5分の動画(YouTube)が再生できます。

昨今の日本のアニメ映画でもトレンドだと思いますが、ボーイ・ミーツ・ガールや恋愛要素は大好きで、それをアニメーション文化や技術の発展著しい中国で題材にするとどうなるのか、今後も楽しみにしています。

映画『兵馬俑の城』の感想

まず”兵馬俑”が何かは、詳しく知らなくとも大丈夫な映画である。映画冒頭でも触れているが、人や動物を模した(陶器の)人形、程度で前知識は十分だろう。学校の歴史の授業を思い出す向きもあるかと思う。ただ美術やCGの凄みを堪能するのであれば、ネットで事前にちょっと下調べすればなお楽しめる。

その兵馬俑を題材として、内容は予告編や公式サイトで謳っている通り、美男美女の活躍するバトルあり、恋愛ありのファンタジーだ。挿入歌のシーンなど、ベタでクサイ演出がややかったるい場面はあるものの、古典的なストーリーの組み立ては悪くないし、アクションシーンは満足度が高い。映像だけに注目していても楽しめる。

まずキャラクター中心に話をすれば、ヒロインのシーユイが強く麗しくて素晴らしい。最近公開されている中国のアニメ映画に登場する女性キャラは『白蛇:縁起』にしろ『山海経』にしろ、格闘能力が高い。男性主人公より強い場合も少なくない。本作で主人公に剣技の稽古をつけるのはヒロインだったりする。こうした造形が作品の幅になっており、終盤で主人公とヒロインが剣を渡し合って共闘するバトルシーンは演出や音楽も相まって、胸がすくようなカッコよさである。恋愛過程に留まらず、作中の仕掛けとして機能していることに感服した。

※『白蛇:縁起』『山海経』の予告編。画像をタッチ・クリックすると動画(YouTube)が再生できます。

また規制もあるのだろうが、シーユイの露出控え目の衣装が清楚で最高。アジア的な感性なのだろうか、ファンタジー過ぎず、歴史的・資料的に忠実過ぎず、絶妙の塩梅だ。キャラクターの等身もデフォルメがきつくなく、リアル指向で良い。昨今性別はセンシティブな問題だが、尻や胸を強調し露出せずともセクシャリティは十分喚起できるのだ、と言いたい。

規制といえば、本作では主人公を始めとした登場人物が陶製(器)であることをうまく利用して演出に活かしている。人間ならば血が吹き出て骨が砕けるような残虐なシーンが、「割れる」という表現に上手く置き換えられている。おかげで年齢層問わず、心理的な負担も比較的少なく映画に没頭できるのではないか。アイデアと発送の勝利だと思う。このための”兵馬俑”という題材だったのか、と感心しきりである。


主人公とヒロインが織りなすストーリーは王道の、邂逅からすれ違い、再会と別れ、新たな旅たち、といったもの。作品のテーマである、人の心の有り様、といった要素もベタだが好感が持てる。挿入歌が入るシーンはややクドいが、恋愛物が好きなら許容範囲だと思う。私は割り切ってニンマリして観ることができた。吹替歌唱も作品に合っている。

※画像をタッチ・クリックすると動画(YouTube)が再生できます。

同様にこれも古典的だが、当初味方だと思った悪役が実は主人公と同じ境遇で、夢を見た果てに悪事を企てて⋯という後半の展開も明快だ。バトルシーンもメリハリあって迫力満点。後半は目が離せない。主人公とヒロインだけでなく、コメディリリーフのマスコットが最後に大活躍するのも心がはずんだ。ベタだ何だと書いてきたが、そういう”定番”や”お約束”を外さないのが堅実でポイント高い作品なのだ。霊獣の存在も、中国の古典に登場する妖怪を思わせつつ、今どきのアレンジが良い。オマージュか遊び心かはわからないが、映画『トレマーズ』に出てきたモンスターとよく似た特徴の化物が登場したりして面白い。

CGは一見の価値あり。日本でこのクオリティが発露しているアニメ作品はあまりないと思う。建物や背景美術は特に素晴らしい。メインの登場人物だけでなく、脇役・端役や小道具に着目しても飽きない。歴史的、文明的要素が目に馴染む。もちろんアクションシーンも滑らかだ。京劇の魅力とアニメーションは親和性が高い。吹替版も違和感なかった。字幕版どちらで楽しんでもよい作品だ。


映画の最後、切なくも前向きな締めくくり(安易なハッピーエンドでないのが趣深い)かと思いきや、続編があるのか? という場面転換が挿入され⋯私は続きが気になった。あれば楽しみにしたい。


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