自分の「読書の仕方」って、これでいいのかな? と考える人は世の中にも少なくないようで、古典から新刊まで常に書店や通販サイトに溢れている。私も見つけてはつい読んでしまう。
だいたいこの手の本はとても平易で読みやすい。そして文章が優しい。読んで読書に怖気づかないように書かれている。それでいて著者の採り上げる作品・読書遍歴は、いかにも一家言ありそうだ。その文章力も納得というものだ。
もっとも”読書法”本には傾向があって、
・ジャンル問わず色々読む
乱読せよ、というわけである。乱読をしていく中で、丁寧に読んだり多読になっても構わない。これが大方の読書好きの共通主張である。そして多くページを割かれているのが、
・古典の価値をもう一度考えて読んでみる
今どきの本も読み、自らも著作を残している人物が書くと、この主張は尚のこと説得力を増す。そもそも読書法を書くような人物は、面白い、役に立つといったレベルを越えて書物に接しているのだ。だからこそ現代まで残っている古典を何度も問い直す。
こんな傾向を踏まえた上で、最近読み直した読書にまつわる新書で記憶に留めておきたいものを今回は少々。
『喰らう読書術~一番おもしろい本の読み方~』 (著:荒俣宏 ワニブックスPLUS新書)。著者を知っている向きからすると入手困難な本ばかり紹介しそうだが、決してそうではない。
喰らう読書術 ~一番おもしろい本の読み方~ (ワニブックスPLUS新書)
- 作者:荒俣 宏
- 出版社/メーカー: ワニブックス
- 発売日: 2014/06/09
- メディア: 新書
『死ぬほど読書』(著:丹羽宇一郎 幻冬舎新書)はもっと実践的、実用的な読書法の本。日常生活やビジネスとのリンクも嫌味がなく、読書を始めたくなる内容。
- 作者:丹羽 宇一郎
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2017/07/28
- メディア: 新書
読書をしていてありがちな、難解な本に直面したときの堂々たる提言が良い。率直な表現で、得心が行く読者も多いのではないか。哲学者のエピソードを引き合いにして、以下引用:
自分が書いたものが他人にどう映るか、客観的な視点や想像力がどこか欠けていたかもしれないと思ったりしました。
難解であるがゆえに深いものが書かれている。抽象度が高いものは高尚である。そんなふうに思い込んでいる人は少なくありません。
しかしながら、それは錯覚です。やさしいことを難しい言い回しにすることは簡単なことですが、反対に難しいことを平易に表現するのは難しいものです。
(『死ぬほど読書』 幻冬舎新書)
最後に紹介する『正しい本の読み方』(著:橋爪大三郎 講談社現代新書)は学問との係わりにも踏み込んだ、まさに入門書。
- 作者:橋爪 大三郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/09/20
- メディア: 新書
ある本が、別な本を批判していたら、ああ、その本を評価しているのだな、と「ポジティブ」に受け取ってください。
本や論文が書かれていても、それがまったく存在しないかのように扱う。批判しない。言及しない、参照しない、引用しない。これがアカデミア(学術界)での、最もネガティヴな態度表明です。
(『正しい本の読み方』 講談社現代新書)
上記引用のような態度に限らず、そういった関係を捉えた上で、本書は「論理」の存在を基調とした構造と意図を読み取る読書を勧めている。当然、著者の背景なり歴史を掴むには本一冊では済まない。例えば昨今注目を集めているマルクスの『資本論』については、『資本論』だけ読めばいいとは書いていない。他の著者との関係、特にイギリスの経済学者デヴィッド・リカードのことを考えるように示唆する。それが『資本論』を読むことであり、読書であるというわけだ。
また数学の方程式を例にして、読書をする上で「論理」をたどること、主張に隠れている前提をチェックすることの重要性を説いている。これが問題を「言葉」で解決する知恵となる、と。そしてこの箇所こそ、よく話題になる「学校で習う数学は世の中で必要な知識なのか」といった話の簡明な答えだったりする。以下引用:
場合分けは、面倒だと思います?
高校の数学で、いったい何を練習していたんでしょう。
議論が成立するための、前提を確認する練習をしていたのです。
(『正しい本の読み方』 講談社現代新書)
巷の議論が、まさに”前提”のところで右往左往しているように思えてこないだろうか。
読書法は多くの自己流があるかと思う。あって構わない。人がどんな本を読んでいるかも気になるだろう。紹介した本はいずれも、読んだら読書がしたくなる。さらにいろんな本と出会いたくなる、という点が共通点だ。そして読書に不変の魅力があることを伝えていると思う。よくある「面白かった本ベスト〇〇」といった記事を読んで本選びすることを否定はしない。だが私は「これさえ読んでおけば大丈夫」という安心感や義務感以上に、これらの本を読んで読書への衝動が湧き立ったことが嬉しい。