戦国時代が好きで歴史SLGをよく遊んでいたが、他の時代の戦いにも興味があった。中国にヨーロッパ、そして第二次世界大戦⋯各々の歴史を知ったら、PCでそれらをテーマにしたSLGを遊ぶのが楽しみだった。
実生活につながる思想的なのめり込みはなく、「あの戦いはゲームで再現できるのか?」「史実ではこの戦い方だけど、自分ならこう戦う」といった追体験が主な目的だった。
当時のそんなSLGの戦闘場面は大体、ヘックスマップ、六角形のマス目で戦場を再現したものだった。今でも使われていると思う。マス目には地形の設定があり(例:森林、市街地)、そこに部隊のコマを配置して動かして戦う。
そこでの戦いは大げさに言えば、連戦連勝だった。ゲームだからクリアできるように設計されている、と言えばそれまでだが、難しくて攻略できないことはなかった記憶がある。電撃戦から待ち伏せまで、お手の物だった。
まず行軍は簡単である。部隊ごとの特徴や、森林から別の場所に移る際などは各種かかるカウント(時間数)が決められているものの、確実に移動はできる。敵情を知るのも容易だ。索敵をすれば大体画面上で一望できることが多く、編成から部隊数まで丸わかりになる。
要は歴史的な興味からこのようなゲームを遊んでも、実際の部隊編成・運用、戦況に応じた戦いといったものまで細かく再現されていなかったのだ。現在のゲームはもう少しシステムが複雑になっていたりするものの、基本的にその辺りはあまり難儀しない。
そんな古代から現代まで、種々の戦争時における実戦での部隊の編成と運用、そして戦術を簡便にまとめた本がある。『戦術と指揮』(著:松村 劭 PHP文庫)である。

- 作者: 松村劭
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2006/03/01
- メディア: 文庫
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この本はほぼ完全に、”戦闘マニュアル”である。出版社から、ビジネス書に噛み砕いた本だと思う向きもいるかもしれない。そういう本に寄せようと、ビジネスでの例え話もわずかに入る。だがその辺りの記述は失敗している。むしろなくてもいいくらい。例えば、私のようにSLGで遊ぶ人間が、「実際の戦闘ってどういう風に進めるんだ?」といった興味から読むに丁度いい、趣味の本である。また小説やドラマを見たり、創作をするときに”現実”はどうなのか、という観点からも役に立つだろう。手元に置いて繰り返し読み、使うに耐える本だ。
軍事関係の趣味や興味を広げていくと、戦車や戦闘機のスペックの話題に走りがちだ。その話題から踏み込んで、戦いは兵器のスペックだけではなく、如何に戦うかが重要なことを知るにもいいきっかけになるのではないか。
本書は戦いに勝つための原則から始まって、戦術の演習、そして架空の設定を基にしたシミュレーションで構成されている。クイズ形式もあり、考えながら読み進めることができる。地形が与える戦況への影響は、ゲームでは再現できていないと思うことしきりだ。また、戦いにおいて人間の精神状態がどれだけ重要か知ることができる。月並みだが、人間の精神は数値で示されるものではないのだ。単なるコマと扱えないのだ。
もしかしたら歴史上のあの人物もこんなことを考えながら戦っていたのかな、と思いを馳せるのは、多角的な視点という意味で有意義かと思う。