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ビジネス書の古典から見直す”生き方”、”自叙伝”の捉え方

教科書にも出てくる歴史的な自己啓発本、誤解を恐れず書けばビジネス書の古典と思われる本が現代でも読める。
スマイルズの『自助論』(竹内均訳 三笠書房 知的生きかた文庫)である。

研究者を始めとした様々な人々の生き様を紹介し、教訓を挙げていく。言葉の引用も多い。まさに巷で売っている会社社長や政治家、スポーツ選手が書いた(とされる)、「考え」や「生き方」、「仕事術」の本の体裁と同じである。

このような本が読みつがれ、それを規範としてある人物が実践・行動し、ひとかどの人物となった後に、その人物が人生を綴り、語り、残す。これが繰り返されて今に至るのではないか。そんな読後感のある本だ。


ここでもう一冊、スマイルズが書いた『向上心』(竹内均訳 三笠書房 知的生きかた文庫)を紐解いてみたい。

向上心 (知的生きかた文庫)

向上心 (知的生きかた文庫)

構成は『自助論』に近いが、『向上心』はよりダイレクトに、生き方や考え方を見つめ直す方向性を打ち出している。刺激的な言葉は用いていないが、これが古典的、普遍的な価値を放っており、実は『自助論』より面白く読んでいた。

昨今のSNSの状況と併せて読みたい一文もある。以下枠内は『向上心』から引用:

 正義を愛するものは、まちがったことや不正な行為に目をつぶっていられない。気持ちが高ぶれば、心にたまったものを激しい調子で言い表わす。
 とは言っても、われわれはあわてて他人を軽蔑したりしないように用心しなければならない。善良な人は得てしてことを急ぐ傾向にある。熱心さを表すこの気性が、そのまま狭量さにつながることもよくあるのだ。

これ以上ないシンプルな解決策も載っている。

度量が狭いのを直すもっともよい方法は、知識をふやして幅広い人生経験を積むことである。洗練された思慮分別があれば、道徳的なあやまちを許せないようなせっかちな人間がおちいりやすいわなにはまらないで済むだろう。

簡単なようで、幅広い人生経験、というのがなかなか難しいのではないか。


そして種々の”偉人伝”、”自叙伝”についても警鐘を鳴らしている。現代にあてはめても、ビジネス書で刺激的で進歩的な発言を繰り返す人物の素性をよく調べてみたくなる。そして発言をすぐ称賛するのではなく、長い目で判断したくなる。

自叙伝はどれも興味深いが、やはり作者自身の飾らぬ姿を期待するのは難しい。自分の思い出を書き記す時、人は自分のすべてを見せようとはしないからである。

 自叙伝にもある程度までの真実は描かれている。しかし真実の一部分しか伝えていないために、全体的には嘘を並べ立てているような印象を与える。
 それは、その人の本当の姿ではなく、こうありたいという姿をあらわした偽装とも言い訳とも受けとれる。横顔の描写は正確でも、正面を向いた時に顔全体の印象をすっかり変えてしまうような特徴が反対側にないと誰が断言できるだろうか。


自叙伝など読まずに凡人たれ、ということでは決してない。肩書と経歴でその種の本に飛びつくのも結構だ。だが例えば、上記で引用したような思慮分別ある人間の生き方は、世間で日の目を見なくとも、確実に未来に向かって役割を果たしているということだ。

誰もが感動をおぼえるような偉大な人物の伝記を読めば、無意識のうちに啓発され、少しでもその人たちの考え方や行動に近づきたいと願うものだ。だが誠実に自分の努めを果たしたごく普通の人の一生でも、後世の人たちの人格を向上させるために力がないとは言えない。


いろんな人に、いろいろな”向上心”があると思う。だがたまには古典を読み返して、現代と自身を眺めてみる余裕も必要ではないか。

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