デジタルエンタテイメント断片情報誌

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『ウルトラマン誕生』 実相寺昭雄と特撮の夢

特撮に何を求めているのですか、と聞かれたら、なんと答えたらよいのか。

ふと考えることがあり、久々に『ウルトラマン誕生』(著:実相寺昭雄 ちくま文庫)を読み直していた。


『ウルトラマン』をはじめとした監督として知られ、特にその独特な演出で名前が挙がることが多い著者が書いた、『ウルトラマン』と制作スタッフの面々を中心とした特撮”メイキング”本である。現場のエピソードから制作手順・撮影技法まで網羅した内容で、特撮に限らず映像ファンも楽しめる内容だ。

ウルトラマン誕生 (ちくま文庫)

ウルトラマン誕生 (ちくま文庫)

私が「実相寺昭雄」という名前を意識し始めたのは、この本に収録される前の『ウルトラマンのできるまで』(ちくまプリマーブックス)を読んでからである。当時既に『ウルトラマン』から離れていた年齢だったが、スタッフの談話やエピソードを交えた撮影現場の魅力に、以後著者と特撮のことを少し気に留めるようになった。

特撮ファンやマニアとしては注目するのが遅かったかもしれない。著者とこの本自体、語り尽くされていることは想像に難くない。そんな自負があるので、今だに声高に名乗ることもない。だが今思えば、この読書経験が現在の趣味への回帰につながったのだと思う。


ここで語られる特撮の魅力とは何か。まさに「夢」、「夢」で溢れているのである。


著者とスタッフが語る特撮は、手探りで、情熱的で、何より純真なのである。そこに『ウルトラマン』という作品としてだけでなく、創作の根源をみる思いがする。

例えば『ウルトラセブン』の「狙われた街」「円盤が来た」で描かれたふすまや畳敷きの部屋だって、子供の頃に友達と遊んだ「宝島の宝庫」や「秘密基地」の体験から生まれた「夢」なのである。

きっと、そのころの童心を忘れられないのだろう。夢にひたりたいのだろう。だから、押入れの向こうに宇宙が、見はてぬ世界がひろがっている、という感覚が好きなのだ。
(『ウルトラマン誕生』P.161 ちくま文庫)

狙われた街

狙われた街


実は著者が担当したウルトラシリーズの作品が手放しに好きで、称賛したいかというと、そうではない。演出面含めて当たり外れが多いな、という印象が正直多い。だがこの本では著者が成功談だけではなく、当時自身が手がけて上手く効果があがらなかった点を素直に回顧・反省している。

そこに合点がいくと同時に、「今ならこうする・できる」と特撮に”思いを残している”ことに感嘆するのだ。それが後年の活動の原動力にもなっていたのだと感じる。

そして著者は現代や将来の技術に触れ、新たなヒーローに期待する。ただそこに技術だけではない、「夢」が繰り返される。

映像には無限の可能性がある。
でも、つかいこなせない技術ばかりがいくら発達しても仕方がない。肝心なのは、人間としての夢なのだ。技術はついてくればいい。
(同 P.193)

お面をかぶった少年たちが成長して、きっとSFXの技術をも消化して、新しいヒーローをつくり上げてくれるにちがいない。
(同 P.194)


最近少しずつ、世間で特撮の波が寄せてくることがある。特撮愛や魅力を熱く語る向きも少なくない。その中で、著者の名前や敬意を度々見かける。だが、撮影技法や演出の奇抜さばかりが取り沙汰され、なぞられているような気がしてならない。

特撮が受け継がれるのであれば、実写、アニメーションといった手段自体は問わない。メインストーリーで官僚や国家が中心になったって構わない。ヒーローや怪獣とともに美少女が出てきて注目されることも歓迎する。


でも、勝手知ったる制作者やファンが語る”オマージュ”や”リスペクト”で終わらない、新しい夢をもう一度見たい。著者とこの本が伝えるキラキラとした輝きのような、特撮の「夢」を感じたい。

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