それにしても、『伊福部昭の芸術 20周年記念BOX』には驚いた。まずリマスタされた『芸術1〜4』を聴き直すつもりで『芸術2』から聴き始めたのだが、単発で発売されたディスクに比べて、左右の分離が凄まじい。オーマンディ=フィラデルフィア管が残した70年台の録音(RCA)にも、左右にズラッと楽器を並べたようなステレオ録音があったが、それよりも極端に左と右に音が寄っている。ヘッドホンだと顕著だが、スピーカーでも十分わかる。
『芸術2』に収録の『タプカーラ』第1楽章冒頭、印象的なレントでこの分離だったので、一瞬、片方のチャンネルから音が出ていない不良品かと思った。しかも『芸術2』を聴いた後に『芸術1』→『芸術4』と聴き進めたのだが、本当に不良品にぶち当たって、またびっくりした。
- アーティスト:伊福部昭
- 発売日: 2015/09/16
- メディア: CD
念のためキングレコードの公式発表をリンクしておくが、初期に発売されたBOXのCDの中に不良品があるので注意して頂きたい。現在流通しているものについては大丈夫だと思うが、特に購入して開封していない・聴いていない御仁がいたら、必ず確認しておいて欲しい。どれも聴けばわかるはず。以下、公式発表から引用:
【該当ディスク/当該箇所】
KICC-91196 「伊福部昭の芸術1 譚 伊福部昭 初期管弦楽」 *トラック4 約0分41秒 編集のテクニカル不良
KICC-91199 「伊福部昭の芸術4 宙 伊福部昭 SF交響ファンタジー」 *トラック9 約0分01秒 編集不良
KICC-91206 「伊福部昭の芸術9 祭 伊福部昭 音楽祭ライヴDISC2」 *トラック1 約1分50秒 テクニカル不良
※上記タイムは、再生機器によって多少の誤差が生じる可能性がございます。
クラシック音楽のCDを漁っていて、特に輸入盤CDで音欠けや再生不能、ノイズ混入というのはたまにある(いずれこれをネタに記事を書こうと思っている)が、こういう国内盤で、しかも記念のBOXで盛大にやっているものに当たったのは久々だ。もう公式で対応しているので、そこまで目くじら立てるものでもないが、このシリーズを愛聴していただけに、少し残念な気持ちではあった。また、公式発表までに『BOX』のCDを聴いていたが、聴く度に「まだ他にもエラーがあるのかな」という疑念が拭えず、音楽が楽しめなかった。
とまあ、そんなこんなで『芸術1〜4』を中心に聴き直したのだが、リマスタについては既に単発で購入していた人が買い直すほどの改善ではないと思った。音の厚みや細かい瑕疵の除去等、改善されている点はあるが、これまでの印象を覆すような改善かというと、そこまでではない気がする。まあ元々完成度の高いシリーズだったということだろう。あとはヘッドホンで聴くと、特に『芸術1〜4』は音量によるが「サー」というノイズが気になるかもしれない。またブックレットはこれまで単発で発売されたディスクに収録されていた内容の流用だが、演奏会のパンフレットからの転載等、一部カットされている部分もある。厳密には完全に収録されていないので、コレクターはそこも早合点しない方がいいだろう。
きっとこの『BOX』購入を機に単発のディスクを処分したい、と考えている御仁もいるだろうが、それは前述の分離等、聴き比べて・確認してからの方が良いと思う。また、これも書いておこう。私の音楽環境では、SHM-CDによる恩恵はわからない。
あとは個別にBOX収録のCD等について。『芸術4 宙』の不良箇所は、「SF交響ファンタジー第1番」の怪獣総進撃マーチ(トラック9)で、弦楽器のみで合奏が始まり、繰り返しで金管(トランペット)が入る所を、いきなりトランペットが入っている部分と繋ぎ合わせている(要は繰り返しの演奏→繰り返しの演奏)という編集ミスだった。しかしながら、元々この『芸術4』の録音は何故か弦楽器の収録レベルを低くしており、作曲者監修とはいえ、何となく物足りなく感じていた。そのため、不良品を聴いた時はすぐミスだと気づいたが、「これはこれで悪くないかも」などと思ってしまった(最近の演奏会ではこの繰り返し部分は端折られることが多い)。この傾向は1〜3番全ての演奏でみられ、金管楽器や打楽器の演奏・収録に不満はないだけに、余計気になっていた。
- アーティスト:日本フィルハーモニー交響楽団
- 発売日: 1995/11/22
- メディア: CD
演奏会での頻度に比べ、セッション録音が少ない「シンフォニア・タプカーラ」の貴重な録音『芸術2 響』。この録音は『芸術』シリーズで、今後かなり重要な意味を持つ録音になるのではと考えている。このオーケストラのキレ、演奏の美しさ、そして(作曲者監修故の)独特な解釈は、実は演奏会ではなかなか味わえなかったりする。前述の「SF交響ファンタジー」ではないが、「タプカーラ」も演奏会になると途端にストレートな解釈で、オケを煽り、とにかく速いテンポで盛り上げておく、という演奏になりがちなのだ。
- アーティスト:日本フィルハーモニー交響楽団
- 発売日: 1995/11/22
- メディア: CD
- アーティスト:和田薫,東京フィルハーモニー交響楽団
- 発売日: 2014/10/22
- メディア: CD
- アーティスト:オムニバス(クラシック)
- 発売日: 2002/08/22
- メディア: CD
最後にボーナスCDだが、「SF特撮映画音楽の夕べ(実況録音盤)」CDと「シンフォニア・タプカーラ」「合唱頌詩『オホーツクの海』」のLP復刻CDとは、ちょっと中途半端なチョイスという気がした。「SF特撮映画音楽の夕べ」は別BOXで復刻もされているし、LPの復刻は「交響譚詩」「日本の太鼓」の方も復刻してくれと思った御仁も多いことだろう。LPの復刻ジャケをこのようにくっつけて遊びたかったものだ。もっとも私は音源自体、もう少し凝ったボーナスCDにして欲しかったが。その話はまた追々。