デジタルエンタテイメント断片情報誌

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CD『伊福部昭百年紀Vol.4』を聴く

伊福部昭の「今」を聴く。大げさでしょうか? いえいえ、発売を待っていました『伊福部昭百年紀Vol.4』(スリーシェルズ)。2016/5/4・渋谷区文化総合センター大和田伝承ホールでのライブ録音。作曲家生誕の日に発売、喜ばしいことです。え、そりゃあ発売が早ければ3/5でも3/7でも構いませんが・・・。

伊福部昭百年紀vol.4

伊福部昭百年紀vol.4

2014年の生誕100年に始まって、ゴジラの誕生60年から2016年新作『シン・ゴジラ』公開・・・一連の流れが伊福部音楽を呼び覚ます度に、この機に限らず、あの唯一無二の音楽を知って・聴いて欲しいという思いが募っていた。これは今に始まったことではない。しかし改めて考えてみると、それは伊福部昭の音楽そのものがいつも厳然として存在していたからこそ、という気がする。

現代音楽に限らず、昨今の音楽シーンが「多様化」「多様性」というキーワードで語られるようになって久しい。そこにあって、純音楽のみならず映画音楽や邦楽諸々との関わり、楽曲の大小様々な編曲・再演、シンセサイザーや声を用いた演奏、プロ・アマ問わない演奏頻度・・・はじめから伊福部音楽は全てに覆い被さり、そして今なお広がり続けているのではないか。そんな実感とともに、作曲家の座右の銘であった「無為」の真価が、少しだけ理解できたように思う。
・・・演奏会・録音共々このシリーズは注目しているのですが、この『vol.4』の演奏会も過去3回に決して引けを取らない、意欲的な、一筋縄ではいかない”攻めた”内容ではないでしょうか。


それではCDの感想・・・の前に、演奏会当日の雰囲気と、CDに収録されなかった曲目の感想を少々。演奏会場は過去3回と比べると比較的小規模で、開演前も多少バタバタした感があったかな。いかにもファンイベントといった趣が懐かしくもあり、またクラシックの演奏会に多少慣れた身としてはもう少し落ち着いた雰囲気であって欲しい、当日はそんな気持ちが半々でした。もっとも最近行われた『百年紀Vol.5』では(私が見た限り)スムーズな開場で、これは杞憂でした。

和田伝承ホールは正直「ここでやるのかあ〜」という意外な会場でしたが、綺麗な設備で特に問題なかったです。当日は前方の座席が比較的空席で、特に両サイドの珍しい桟敷席を予約すれば良かったとチト後悔。空席は今思うと少し寂しかったですね。この後行われた黛敏郎の個展やメモリアルコンサートが盛況*1だっただけに・・・師匠も負けてられない、ではないですけれども。

そして、当日の演奏では二十五絃独奏曲「胡哦」(演奏:佐藤康子)が素晴らしかった。楽器から想像する”雅”といった安直なイメージが恥ずかしくなる、火花の飛ぶような演奏でした。現代邦楽への興味も、伊福部昭が端緒だったかもしれません。閉館した津田ホールで開催されていたリサイタルを思い出します。演奏会前に、ホール近くの喫茶店でお茶でもしようと思ったら、丁度店を出る作曲家本人(当時は既に車椅子だった)と遭遇してしまい、大げさですが”畏怖”の念を感じてその場から退散したことがあったなあ*2


それではCD収録曲の感想。「九人の門弟が贈る伊福部モチーフによる讃」が、記念の折に今なお演奏・録音されるというのは嬉しいし、凄い。モチーフだけでなく、やはり弟子の個性も半端ないなといつも惚れ惚れしてしまう。「幻の曲」(石井眞木)を聴く度に「人間釈迦」を舞台で観たい・聴きたいと思います。資料等、色々判明しているようですし、是非是非。あとは「Gozilla is dancing」(三木稔)も面白いですねぇ。初めて聴いた時のショックを今でも憶えています。ここでどんな曲か書くのは野暮にも程があるので、聴いたことがない御仁がいたら、ぜひ聴いて頂きたいです。
この「讃」に限らず、つい最近まで真鍋理一郎や今井重幸が師に贈ったお祝いの曲を聴く機会が度々あったのですが、大変幸運でした。


「子供のためのリズム遊び」は『伊福部昭:ピアノ作品集 第三集』(ゼール音楽事務所 ZMM1309)でピアノ版の録音が発売された際に、なぜもっと話題にならないのかと不思議に思ったくらい良い作品。伊福部昭を知って、楽しむなら外せない曲ではないでしょうか。ピアノ版の軽やかさと小気味良い演奏も聴き物ですので、『ピアノ作品集 第三集』もお薦めです。楽譜も出ています。

そして今回『Vol.4』に収録された演奏は、もう重心が低い低い。メロディもリズムもそう。好きか嫌いかといわれたら、もうたまらんというくらい好きですがね。ちなみに当日の演奏では音の響きもややデッドな印象だったのですが*3、録音では芳醇な感じに収録されていて素晴らしい。この時代(1950年前後)は編成如何ではなく、オーボエを中心とした木管楽器群の使い方にやはり凝っていた(試していた)のだなと、納得。それにしても、楽器の数ではない、ホールを支配する独特な音楽世界はここでも健在です。

「5.ギャロップ遊び」なんて、大地を踏み鳴らして踊っているようで、敢えて伊福部作品の話をするときに避けていた表現を使いたい。こんな土俗的な「あんたがたどこさ」、聴いたことがない。そう言えばピアノの使い方も「わんぱく王子の大蛇退治」を思わせる。殊更強調された打楽器のリズムが音楽に切り込んできて、シンバルの一撃が面白い(楽器も作曲家自身の好みでなく”子供のため”なのか、わかりやすく使用しているフシがある)。
実は収録曲では「6.木の葉」がとても好きで、鄙びたオーボエの音色と曲の緩・急・緩に伊福部音楽の魅力を感じます。この後続く「 7.運動会行進曲」と「8.楽しい学校(マーチ)」は、前述のピアノ版CDが発売されていたので『シン・ゴジラ』公開時にもう少し話題になるかと思ったら、案外そうでもなかったですねぇ。『大怪獣バラン』や『源氏物語』の話題は割と見かけただけに。両曲とも「宇宙大戦争マーチ」のような曲調ではなく、どこか牧歌的で朗らかな雰囲気が聴いていて楽しい。
ちなみに「7.運動会行進曲」と「8.楽しい学校(マーチ)」の曲名を初めて見た時、私は曲の中身は逆だと思っていました。何故かと言うと、『未発表映画音楽全集日活編』(VAP)に収録されていた「女中ッ子」の音楽に「05 運動会」というトラックがあり、それが「吉志舞」の第2主題、「フリゲートマーチ」の流れを汲む曲だったからです。『日活映画音楽大全』もスリーシェルズから発売されていますので興味があればどうぞ。

未発表映画音楽全集日活編

未発表映画音楽全集日活編

伊福部昭 日活映画音楽大全

伊福部昭 日活映画音楽大全

あとは「9.軽快な二拍子」が正直軽快に聴こえないのですが、専門的にはそうなのでしょうか。むしろ気怠い感じの曲運びと時折刻まれる重いリズムが癖になりそうです。あーいけませんね、曲名からこんなことを書いていては、サティを信奉していた作曲家に怒られますな。ちなみに、一部「ゴジラVSメカゴジラ」の「Gフォースマーチ」に似た旋律があります。あ、「2.阿羅漢さん遊び」にもありましたね。
伊福部昭百年紀ベスト

伊福部昭百年紀ベスト

そうそう、昨年発売された『伊福部昭百年紀ベスト』(スリーシェルズ)でついに収録された「ゴジラVSメカゴジラ組曲の感想を少し。アンコール的な位置づけで、この勢いはグッド。「Gフォースマーチ」はあの序奏があれば最高だった。伊福部マーチの魅力は、ああいう序奏や間奏にもあるように思う。あと時節柄、ゴジラのテーマを演奏会でよく聴くのですが、「ドシラ、ドシラ」の最後の「ラ」を伸ばすと平成の『VS』シリーズになるのですよ(巨大感を出すためにそうやってたんでしたっけ)。スタッカート気味にやると、ゴジラ(1954)、みたいな。そこが組曲ではチト惜しかった。なんだか、「シンフォニア・タプカーラ」第3楽章の演奏のポイントみたいですね(※実はこのタプカーラの話も『Vol.4』に関係あったりします)。


組曲「イワンと子馬」も、編成と楽器の使い方の妙を味わえる曲。この曲で他作品の音楽流用を記事にすると、拙文がさらにひどくなってしまうので、こればかりは聴いてのお楽しみということで。かなり楽しめるでしょう。曲としては、後半にリズミカルな弦が主体になる「空飛ぶ子馬」がお気に入りです。やはり弦楽器の使い方が流石というか、好きですね。組曲を聴いて物足らなくなったら、もちろん『未発表映画音楽集』で補完しましょう。もっとも組曲の再現度が凄いからこそ、安心してこんなことが書けるのですが。『未発表映画音楽集』は、店頭にも長期間在庫があったはずですが、最近は入手しにくくなっているかもしれません。

伊福部昭未発表映画音楽全集?藤城清治影絵劇編・せむしの子馬

伊福部昭未発表映画音楽全集?藤城清治影絵劇編・せむしの子馬

ちなみにロシアのロディオン・シチェドリンが同じく『せむしの仔馬』を題材にバレエ音楽を書いているので、聴き比べるのも面白いと思います。シチェドリンの作曲は1955年頃のようで、伊福部昭の方が早い(1953)のですねぇ。どちらも全曲・組曲の録音がある上に、シチェドリン版も全曲盤(OLMPIA OCD219)が入手困難という・・・ただ組曲版は最近復刻されました。トラック名を見るだけでも「同じ題材なんだなぁ」とニヤニヤできます。

Shchedrin: Carmen Suite

Shchedrin: Carmen Suite

まあシチェドリンを聴いたことがないという御仁には、併録の「カルメン組曲」の方がインパクトが強いかもしれません*4。これもまた、編曲の妙ですなあ。


そして「セロ弾きのゴーシュ」。この組曲については正直に書いてしまいますが、もう初っ端から、ああ「タプカーラ」の第3楽章だなあ、などと思ってしまいました。特撮・映画音楽から伊福部昭を知った御仁が、初めて「ヴァイオリンと管弦楽のための協奏風狂詩曲」や「リトミカ・オスティナータ」を聴いた時に「怪獣総進撃マーチ」*5や「コング輸送作戦」を思い浮かべたように、所謂純音楽から伊福部昭に入り込んだ御仁にとっても、同じような現象が起きたのではないでしょうか。

そんな感じで曲が進んでいくのですが、「Cheerful Camban」でチェロのソロが奏でるあのメロディは、血湧き肉躍る禁断症状が出そうになる。ここに弦楽器群やピッコロが殴りこみをかけるんじゃないかと期待してしまいますが、もちろんそんなことはありません。アンコールはやはりというか、「インドの虎狩り」。チェロ2台、コントラバスの演奏がもう、カッコ良かった。

セロ弾きのゴーシュ」、ひいては宮沢賢治作品は多くの日本人作曲家が題材にしており、私は丁度、林光の『セロ弾きのゴーシュ』(オペラシアターこんにゃく座日本コロムビア)を聴いていました。林光は同曲を2種類残していて、このCDはオペラ。しかも演奏にチェロを使いません。本当に偶然なのでしょうが、こちらも自作・他作の引用・編曲が面白い作品です。「てぃーちでぃーる たーちたーばー」と歌いたくなります。あ、「原体剣舞連」も出てきます。

林光は「タプカーラ」の初演評を知って、実はなんとなく敬遠してしまっていたのですが、芥川也寸志や新交響楽団との関係*6、日本人作曲家に興味を持って以来、音楽に向き合えるようになり、演奏会に行きCDまで収集する作曲家の一人になってしまいました。テヘヘ。


『Vol.4』は記念の演奏会としてだけでなく、『百年紀』シリーズでは伊福部昭を網羅する、という意気込みを再確認するような内容だった。ここから向かう世界が純音楽か映画音楽か、効用音楽云々はこの作曲家の音楽にとって、些事であるように思う。オーケストラ・トリプティークの他の演奏活動にも、そういった”音楽”を探求するような熱意を感じる。

とまあ、『Vol.4』の感想は収録曲の内容を意識して、伊福部昭以外の作曲家の話にも脱線しましたが、これが楽しいわけですよ。例えば今回名前を出しましたが、石井眞木作曲の「オーケストラとシデロイホスのための交響詩」(ウルトラQザ・ムービー〈星の伝説〉)なんて、現代音楽としても映画音楽としても大いに興味がある存在なので、演奏会で聴いてみたいなあ。とオーケストラ・トリプティークに無茶な期待をして、百年紀『Vol.5』のCDを楽しみにしたいと思います。

*1:特に豊洲シビックホールで行われたメモリアルコンサート(2017/4/5)は自由席のみの販売だったが、開演前に人が増えて席が埋まる埋まる。早めに行って席を確保していたとはいえ、今後のコンサートは全席指定でないと不安になる勢いだった。と同時に黛人気の底力が嬉しかった。

*2:ちなみに当時、サインを貰うのであれば、オーケストラ作品の演奏会よりもこうした演奏会の方が人だかりも少なく、狙い目だったと思います。

*3:1960〜80年代の、東京文化会館で収録されたオーケストラ作品の録音を聴いたみたいな響き、と書いたら・・・分かりにくいか。ティンパニの音が鉄板みたいで、管楽器が近すぎたり遠すぎたりの妙なバランスで弦楽器がゴリゴリ鳴っているみたいなアレです。

*4:岩城宏之がオーケストラ・アンサンブル金沢と収録した録音(ポリドール)もあるので、日本人作曲家・演奏家ファンには割と有名かも。

*5:「協奏風狂詩曲」はゴジラのテーマについては解説でもよく触れられるのですが、私が初めて聴いたときの第一印象は、ヴァイオリンソロの奏でる『総進撃』メロディでした。あ、『三菱未来館』の話はご存知でしょうから敢えてしませんよ。

*6:林光といえば、芥川也寸志の生誕90年記念のシンポジウム・演奏会(2015/11/22、古賀政男音楽博物館けやきホール)で、清瀬保二のピアノ協奏曲をピアノ演奏する映像が一瞬流れたのですが、曲だけでなくその姿がもうカッコ良くて、映像が残っているのなら全部観たいです。

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