上京してクラシック音楽にハマって、楽しみにしていた演奏会があった。先日亡くなった評論家・宇野功芳が指揮する、アンサンブルSAKURA(公認HP)の演奏会だ。
あのクラシック音楽の評論家が自ら実践、ということだけでなく、その演奏がとにかくスゴイ、という話を聞いてどうにも聴きに行きたくなった。当時、毎月毎週のように演奏会巡りをしており、アマチュアオーケストラの演奏会にも足繁く通っていた。「Freude」(アマチュアオーケストラの演奏会情報サイト。頻繁にチェックしていた重要サイトだが、現在閉鎖)を見て、聴きたい曲、珍しい曲をやらないか調べては、目ぼしい演奏会に足を運んでいたのだ。とにかく貪欲に音楽を貪っていたように思う。確か、その一環の意味もあった。
ここで繰り広げられた演奏が本当に痛快だった。プロ・アマ云々ではない、音楽を聴く面白さ・醍醐味を教えられた気がした。これは決して誇張でも皮肉でもない。指揮者が毎回どんなアプローチをするのか、それにオーケストラがどう応え、頑張るのか、得難い時間を過ごさせてもらった。正直、評論家としての宇野功芳の著作よりも指揮活動の方が好きになり、CDも集めるようになった。どちらを採る、と聞かれれば、僕は”指揮者”・宇野功芳を採りたい。
特に印象深いコンサート・録音を挙げるとしたら、2002/7/6のモーツァルト:交響曲第41番『ジュピター』、2005/1/22のモーツァルト:交響曲第25番とベートーヴェン:レオノーレ序曲第2番、ドヴォルザーク:交響曲第9番『新世界より』(いずれも場所は川口総合文化センター)だろうか。2005年の演奏会など、完全収録した録音を発売して欲しいくらい、聴きどころ満載だった。パンフレットも面白かった。
CDで聴くなら、2002年のモーツァルト:『ジュピター』(URFC-0038)が言わば、「自分だけ」の愉しみ。演奏会の練習の様子は、ヴァイオリニスト・佐藤慶子によるプロの厳しくも優しいアドバイスがネット上でも閲覧できるが、まさにそれを体現したような、やり尽くした演奏なのだ。
例えば終楽章なんて、ワルター(60年)のテンポ(こっちのテンポを採ったのか、と今でも思う)に、ブリュッヘンのごとく音楽に陰影付けしていて、たまらない。何だか気恥ずかしくなるが、今回はこんな褒め方をしておきたい。オケは技術的には決して上手くなくとも、表現に迫ることの説得力が素晴らしくて、僕は気にならない。ちなみにCDの録音もその迫力を良く伝えており、大変好み。宇野功芳には、今でも感謝している。
最後に小ネタ。落合博満監修の『オレ流クラシック』に収録の、ワーグナー:ワルキューレの騎行は宇野功芳指揮・新星日本交響楽団だったりする。発売がキングレコードとはいえ、音源のチョイスに意表をつかれた。そういえば音楽で打線を組んでたなぁ。