デジタルエンタテイメント断片情報誌

デジタルな話題もそうでない話題も疎らに投稿

レーグナーとベートーヴェンの余白

年末この時期になると、ベートーヴェンの話題をしておこうか、という気になる。

もちろん”第9”一曲だけの話でもいいのだが、毎年一回は交響曲全集の話題を記事にしているので、それにかこつけて。1曲だけでなく、ベートーヴェンの交響曲は全集で是非。


ハインツ・レーグナーという指揮者がいた。東ドイツを中心に1990年代前半位まで活動していた指揮者だ。もっとも私には実演に触れた、とか、熱心に音源を集めた、といった記憶はない。私がクラシック音楽に興味を持ち始めた頃には既に引退状態で、その名前がクラシックの音楽シーンを沸かせているのを見たことはない。

だが幸いというべきか、正規の音源にはそれなりに恵まれている指揮者だった。徳間ジャパンやベルリンクラシックスから発売されていた音源は比較的新しく、しかも他レーベルに比べると、安価な上に手に入れやすかった。「レコード時代に比べると音が悪くなった」という評判も目にしたが、他社の録音と比較してCDの音がそれほど悪いと思わなかったので、気にしなかった。そもそもレコードで聴いたこともない。それくらいCDが充実・流通しきっていた。おかげで自然と聴く機会が増えていった。

このレーグナーが読売日本交響楽団を指揮して録音したベートーヴェンの交響曲(徳間ジャパン)が、耳に馴染んでいる。単発で発売後、全集化された。しばらく廃盤になっていたが、近年キングレコードが再発している。もっとも廃盤になってもさしてプレミアもつかず、手に入れやすかったが。でも嬉しいことだ。


全体的な演奏の傾向としては、オーケストラを徒に弛緩させることもないし、逆に厳格過ぎたり、表情づけが激しすぎることもない。そして現代的なスピード感ある、良い意味での軽量で快活な演奏でもない。

ベートーヴェンを楽しむにちょうどよい重厚感、過不足ない迫力と統率感、テンポ設定が魅力の、繰り返し聴いても飽きない録音なのだ。第3番や第5番でその傾向が顕著だ。それでいて第2番など、よくあるキビキビしてコンパクトな演奏でなく、悠然として広がりのある演奏で気に入っている。ライブ録音の第7番もエキサイティングだ。こういう楽しませ方を忘れていないので「スタンダード」などと書いて片付けるわけにもいかないのだ。

オーケストラの状態も良い。特に金管楽器は安定していて、この録音を聴いて外国のオケが~、日本の演奏者は云々といった”雑念”はあまり思い浮かばないと思う。

私が購入した頃には既に中古のワゴンセールに並んでいたが、「皆こんな良い演奏でも手放しちゃうんだなあ」と自宅で聴いて唸ったことを思い出す。


そして再発された盤にない魅力が、徳間の旧盤にある。キングレコードの再発盤はベートーヴェンの交響曲のみ収録されているが、単発で発売された徳間の初出盤にはワーグナーの管弦楽曲やバッハのアリアが余白に収められている。演奏はもちろんレーグナーと読売日本交響楽団だ。Amazonに一部旧盤もリンクがある。

ベートーヴェン : 交響曲第2番ニ長調

ベートーヴェン : 交響曲第2番ニ長調

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この”余白”が実に味わい深い。品の良い選曲・演奏で、ベートーヴェンを聴いた後でも再生を止めたくならない。アンコール・ピースのように楽しめるし、気分によってそれらの曲だけ楽しんでもいい。これらの収録曲が再発されなかったのは残念だ。一度全集化したときもそうだったので、不要と判断されたか。

それにしても、CDやレコードを買って楽しんでいた頃の収録のほうが粋な計らいで、「まだCD買っている(売っている)のか」という時代の再発が何とも素っ気ないのは、配信・ダウンロードの恩恵に預かっている身としても寂しい。豊かさとは何か、のような不毛な話の餌にしてしまいそうだからだ。そして何より持っている古いCDが処分できない。


まあそもそも配信もされていないので、このご時世で購入し、所持することに意味があるCDだと薦めて終わろう。できれば旧盤を。探せば、案外容易く見つかる⋯と思う。

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