自宅で仕事をするようになったのだが、むやみに外に出るわけに行かない。最低限の買い物以外はどこにも出かけない。元々それほど外出する性分ではないので、家にいることの窮屈さはさほど感じなかったものの、ある種の緊張感はそれなりに持続させてきたつもりだ。
そうなると何か楽しみが欲しくなる。今必要なことで、問題ないこと⋯。大変月並みだが食事に目が向いた。自炊できる時間も増えたことだ。だが、所詮は気が向いたらレシピを見て、程度の料理レベルなので、続かない。早くもレパートリーが一巡した。
元来食事という行為は好きなのだが、ここでふと「もし毎日同じような献立の食事しか摂れない決まりになったらどうするか」みたいなことを考えたりする。
うーん、飽きたと思う日もあるだろうが、そのうち諦めがつくだろうな。多分そのときは自分の置かれている状況が”普段””日常”ではないだろう。
いや、もしや今ってそんな状況に近いのでは、そう思って読み直した本がある。『戦闘糧食(コンバット・レーション)の三ツ星をさがせ!―ミリタリー・グルメ』(著:大久保義信 光人社)である。
世界各地の軍隊、部隊に所属する兵士が最前線で食べる食事、携帯や調理の簡単な缶詰などの戦闘糧食(りょうしょく)を紹介した本だ。新装版になる前、20年くらい前から刊行されている。古本でも安価で手に入れられると思うが、店頭では案外見かけない本である。多分手にとって読むと面白くて手元に置きたくなるからではないだろうか。
今やインターネットで同コンセプトのWebサイトを容易に見ることができるが、扱っている国の数(日本含めて22ヵ国)と味含めた紹介の丁寧さは書籍として読むに足る。特に実際に現地に赴いて、現地の状況や兵士の様子を伝えているのは耳学問で終わらせない説得力がある。最新の状況と比較するにも便利な出典になるだろう。
ここに載せられた数々の糧食は一言、食べてみたくなる。とは言え世界の物流も大混乱の今、単なる気晴らしの通販利用は忍びない。そこで近いものを買って真似してみる。その代表格がクラッカー、ビスケットである。
携帯食として説明は不要かと思う。世界各国の糧食で登場するクラッカーやビスケットは、所謂パン代わりだ(パンが糧食に含まれる国もある)。これにおかずや様々な塗り物をつけて食べる。最近は「食事したいけど、あまり量は食べたくない」ときが増えたので、これが楽しい。朝はパンからクラッカーに切り替える勢いだ。クラッカーも色々種類があるので各自調べてお気に入りのものを探すのをオススメする。
そんな一時の楽しみを与えてくれる本書と食事だが、久々に読み直してある箇所が目に留まった。日本(陸上自衛隊)の頁である。
陸上自衛隊は現在でも「飯ごう」を装備しているが、レンジャー部隊や訓練教育以外で炊いたり煮たりは基本的にしない、とのことだ。食器としての利用なのである。このことに関連して以下引用:
かりに日本有事となった場合に、陸自隊員個々が日本国内の塹壕や陣地内で飯ごう炊飯をしなければならない状況というのは、もはや末期的な有り様のハズだ。
この箇所が今の状況と照らし合わせて全く無関係で、有り得ない未来だと、どうにも考えづらい。こんなときだから食事にでも楽しみを、と思ったのが発端だが、裏を返せばまだ楽しみを求める余裕があるとも言えまいか。例えば近頃「気の緩み」という言葉をよく見かけるが、今を取り巻く問題はもっと以前から横たわっていて、根が深いのではないか。
食事の興味はそこそこに、日常に少し襟を正したいと思う。