1/31(金)より公開中の映画『メイクアガール』の感想です。詳細なネタバレはなし。ただし観た人向けの内容です。映画館でチラシを見かけて気になっていた作品です。オリジナル作品ということも期待。
才能ある制作者の作品がファンの熱意と共に日の目を見るのは素晴らしいことだと思います。だからこそ面白いかどうか、鑑賞しがいがあるというものでしょう。
※画像をタッチ・クリックすると主題歌スペシャル映像(YouTube)が再生できます。

映画『メイクアガール』の感想
映画の冒頭、掴みが今一つで正直出鼻を挫かれた。ネタとして古典的かつ捻りがなさ過ぎる。しかも初っ端から主人公のキャラクターもありきたりが過ぎて唖然とした。プロ・アマ問わない、いかにも今一つな、ぎこちない作品に登場しそうな理系特化の人間という性格付けに嘆息した。主人公の魅力というものをもう少し考えてほしい。その上、男友達から密かに思いを寄せるクラスメイトまで、手垢のついたキャラクターオンパレードで目新しさも何もない。作品を支える要素としてこれほど落胆するとは思わなかった。
このようなポジションの脇役を登場させること自体、字数を割くほど普段は気にしていない。だが、なぜ友達になったのか、なぜ好意を寄せているのか、本作は主人公の性格描写が序盤からかなり決め打ちなこともあり、観ていて終始釈然としなかった。きっかけとして役割があるにしても、果たして存在が必要だったのかとすら思えてくる。作品に描写を挿入する余裕があれば、過去に主人公が彼らと知り合い仲良くなったエピソードを作中の回想や会話に入れて示すであろう関係性を、いきなり主人公に用意している感が強い。彼女(人造人間)の早々とした誕生もそれに合わせているかのようなご都合感だった。つまり観客にとって事前に、例えば別のメディアミックスで既に知っているか、前提知識として必要なのか求められているような印象を与えるわけで、流石にオリジナル作品にしては野放図かなという気がした。
ではメインのストーリーはどうかというと、人造人間が人の心を身につけて⋯という予告で分かる通りの内容と、仕掛けという仕掛けがないほんのりサスペンス風味の味付けをして、さらに薄味の親子愛を添えた、何とも粗悪なものだった。もはや序盤で人造人間の彼女の創造が、あの世界において驚きを持って迎えられず、ごく自然に受け入れられていることに話の整合性や作品のテーマを求める以前の問題だと思う。主人公は生い立ちが今後の伏線と思わせるギミックを持っているが、目を見張るような表現も驚きもなく、何より前述の通りキャラクターからして迷走しているので痛ましい。裏設定や、続編があれば明かされそうな秘密や真実など、観ていてどうでもよくなってくる。
そもそも主人公の母親が彼女(人造人間)を制作するよう、主人公に仕向けていると思しき伏線は序盤から散りばめられている。そこから母子の情愛や、彼女を制作した真意というのが作中で明かされる、あるいは明かしている、というのがストーリーの常道だとは思っている。ところが主人公の回想にある、幼い頃の母親との別れの場面を観るにつけても、主人公は年相応に別れを拒むでもなく超然としているため、妙なしこりとなって引っかかる。序盤から示された現在の主人公の性格付けが、どうも過去から一貫しているような描かれ方なのだ。主人公周りの反応も、大人まで含めて同様である。当時は子供心に理解できなかった、と受け取るには説明不足ではないか。どういう経緯を経て現在の性格形成されたのか、読み取る余地が正直見当たらなかった。そこに主人公のギミックと相まって、主人公の出生や存在自体に「母親や彼女に拘る道理もないのでは」とメタ的な視点を含めて疑問が生じる。そうなるとストーリーの本筋から生まれたはずの感動やテーマの発見に辿り着く過程は益々阻害されていく。
この辺りの作品の出来栄えに目をつむり、人造人間に芽生えた心の在り様や、ロボットは人間に従うといったSFの古典といえる要素を掘り下げて考察や解釈を繰り広げ、あるいは古今東西の作品を引き合いに出すような魅力には残念ながら至らなかったように思う。御託を並べる前に、それらに応えるだけの深浅が本作にないと捉えるのが肝要ではないだろうか。それこそ興味深い内容ならば、二の矢三の矢と記事を出していたところである。まず眼の前の浅瀬で泳ぐ姿が見えている魚を捕まえなければならないのに、深い所に潜ったり沖に出たりするようでは捕まえられない。別の生物なら捕まえられるかもしれないが、それは曲解や奇を衒うということになりかねない。
映像や動画のクオリティもこれは、という表現は残念だがないに等しい。スピード感ある映像で誤魔化したのかと言いたくなるほど厳しい。この程度で「売り」ならば、普段もっとクオリティの高い作品を観ているつもりだ。本作に限らないが、グロテスクなシーンは上手く扱わないとギャグに見えてしまう、というのはそろそろ気がついてほしいところ。食べ物の表現はアニメーションの見せ所みたいな風潮も、今や古い。
キャストに不満はないが、これだという演技の魅力も感じなかった。そつなく演じているに過ぎなかった。キャストを活かすに足る作品ではなかったとも言える。音楽に関しては感想がない。記事に主題歌スペシャル映像のリンクを貼ったが、映画館では全く記憶に残らなかった。
少なくとも一本の映画として全国の映画館で公開されるのであれば、類まれな人物が個人や少数精鋭で作ろうが、大手映画会社が大々的に制作しようが、完成した作品が面白いのなら私はどちらでも構わない。本作は面白いとはとても言えない作品だった。ラストで続編を匂わせていたが、ほぼ興味が失くなった。今映画館で観なくとも、観たいのであれば配信を待てばよいのではないか。ましてディスクを求め、何度も見返すような魅力を感じる作品ではないだろう。