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小説で続きを読む『時守たちのラストダンス』

ようやく『時守たちのラストダンス』(原作:東堂いづみ 著:三萩せんや 河出書房新社)を読んだので感想を書いておきたい。2016年に公開されたアニメ映画『ポッピンQ』の続編”小説”。なので感想は映画を鑑賞していること前提。小説ながら気合の入ったPVもある。

※画像をタッチ・クリックすると動画(YouTube)が再生できます。

『ポッピンQ』は東映アニメーションの記念作で、それなりの宣伝や公開規模だったと思うがヒットしなかった様子。素敵なキャラクターデザインに映像面ではダンスも良かったが、内容としてはターゲットの年齢層を絞りきれていなかった。青春・思春期をテーマにしつつ伏線的な面白味も少なく、成人が観ると物足りない、子供が観たら今一楽しめないという具合ではないか。ファンタジーにしても無難過ぎたように思う。ただ個人的には、中学卒業前のメインキャラ各々の悩み・葛藤が大げさでない、等身大なもので好感を抱いた。学校を卒業して大団円ではなく、始まりであるという締めくくりも良かった。成長物としてもう少し対象年齢を上げて踏み込んでも良かったかもしれない。続編を予感させるラストだったので一層惜しいなと思っていた。

ポッピンQ

ポッピンQ

  • 瀬戸麻沙美
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その辺りは以前感想で書いたが、まさかこのような形で日の目を見るとは。ファンの、制作スタッフの熱意でここまで辿り着いた作品。私など大したファンでも何でもないが、このような縁があったことにささやかに感謝したい。

『時守たちのラストダンス』の感想

まずメインの5人が高校で再会する場面は映画をなぞっていて胸が高鳴る。ただ、お互いのこと、映画(前作)での出来事に関して記憶がほぼ消えていることに関しては、伏線とは言え少々残念。読めばやはりそうかと思う反面、卒業からの新たな生活なので、もう少し5人一緒の楽しい学校生活、楽しい一時が垣間見える内容を期待していた。メインの5人に新たな悩み・葛藤が生まれるのはわかる。だが、5人各々がそれを持ち寄り再びダンスに向かうという”天丼”ではなく、今度は気心知れた5人と絡んでいくうちに⋯という流れの方が新鮮だし、映画で物足りなかった部分が補われたのではないだろうか。全員揃った場面で吐露するだけではなく、ペア、トリオでの絡みにバリエーションがあってもいいのにと、もどかしい気持ちで読んでしまった。要は映画を前提に、進展した5人の関係性に喜びつつ新たな物語を楽しみたかったのだが、個人的に期待した方向からは外れていた。

もっとも話の展開から、そういったエピソードを挿入するのが難しかったのかもしれない。この辺りが映画と同様、小説のボリュームの都合なのか全体的に駆け足気味になってしまった。特に主人公の伊純には重めのエピソードを入れている。これが軸になるが故に、伊純以外のキャラクターの見せ方が残念になってしまった印象だ。もし映像化があるのならば、この辺りのバランスの改善を願いたい。小説と全く同じ内容でなくてもよいはずだ。映画も単発でなくとも、前後編でも3部作でも、というところだ。

そのメインの伊純のエピソードに絡んでくるレノの正体もやや唐突感があったか。これは仕方がないが、前作からの伏線という面からは弱い。アクション全開というわけでもなく、おそらく映像化しても映えないように思う。痛快さかハートフルか、映画をさらにどっちつかずの展開にした感がある。内容的に、一からやるなら映画を作り直すところから始めるか、前述の通り尺が必要かなと思った。

また改めて文章で読むと、ダンスは映像ありきかなあという寂しさがある。決して小説として表現がまずいわけではない。ただ、作品のウリだった要素なので、上達や団結の過程は絵がついた方が説得力があるように思う。心情描写の面で小説が優れているのは認めつつも、この作品の映像的魅力を再認してしまった。


小説の文章は読みやすい。カバーの絵も相変わらず魅力的だ。だが内容に関しては映画のラストから(勝手に)思い描いた方向ではなかった。今後プロジェクトがどうなるかはわからない。その点からも消化不良だ。僅かではあるが期待する。


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