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映画『白蛇2:青蛇興起』の感想(字幕版)

2021年に日本で吹替版が劇場公開された映画『白蛇:縁起』の続編、『白蛇2:青蛇興起』(字幕版)の感想です。中国では既に『2』が公開されており、日本では2022/6時点でNetflixが独占配信中です。『縁起』が当初U-NEXTで配信開始だったのに対し、何だか商売としてチグハグな気がしますが、まずは観られることを喜びましょう。色々と事情があるにせよ、私の関知するところではありません。

実は『2』の劇場公開を楽しみにしていたのですが、昨年12月に配信されていたことを知らなかったのと(何たる情報音痴)、『白蛇:縁起』が良かったので待ちきれず観ることにしました。ちょうど『縁起』のBlu-rayが今年5月に発売されましたし、そんなファンも少なくないかと思います。中国映画のイベントで『縁起』も再上映の機会が多いことですしね。

今回の感想はネタバレありです。ただ、感想に行く前に『2』を観るにあたってのガイドを挟みました。いきなり『2』を観てよくわからなかった、という御仁がいそうだからです。

※画像をタッチ・クリックすると動画(YouTube)が再生できます。

『白蛇2:青蛇興起』を観る前に

既に配信されてから半年が経っており、今更だが『白蛇2:青蛇興起』鑑賞前にやっておきたいことについて書いておこう。これから観る人、もう観てしまった人、どちらにも向けて。実は後述の感想にも関係しているからだ。

  • 『白蛇:縁起』を観ておく

やはり続編なので、前作は観ておきたい。いや、観ておいた方がよい。登場人物、ストーリーも続いている。今なら『縁起』もディスク・配信揃っている(U-NEXT以外でも配信中)。

  • 『白蛇伝』について知っておく

前作『縁起』も同様だが、作品のベースとなった『白蛇伝』は中国ではポピュラーな民話だ。ドラマに映画と、実写で何度も映像化されている。だが日本では正直知名度が高いとは言えないのではないか。少々残念ではあるが、『2』はこの『白蛇伝』と周辺情報を知っていた方が楽しめると思う。ちなみに前作『縁起』はさほど知らなくても大丈夫(だからこそヒットしたとも考えられる)。なので手っ取り早くWikipediaや青空文庫で『白蛇伝』を調べておこう。中国語版のWikipediaも充実しているし、青空文庫の『雷峯塔物語』(著:田中 貢太郎)は『2』を観る前にはうってつけだと思う。


また手前味噌だが、当ブログで以前『白蛇伝』を知るための記事を書いており、その他の文献についても紹介している。よければこちらも。

『白蛇2:青蛇興起』の感想

まず本作は作品のベースとなっている『白蛇伝』を大まかにでも知っていた方が楽しめると思う。前作『白蛇:縁起』がそういった知識がなくても楽しめる構成・展開だったのに対し、本作の冒頭は続編でありつつ『白蛇伝』の流れも汲んでいる。中国で上映するなら配慮は不要かもしれないが、日本だと前作を観ていても戸惑う向きが少なくないのではないか。

特に”宣の生まれ変わり”に前作の主人公、宣のような活躍を期待していると大いに落胆することだろう。出番がほとんどない上に大変情けない姿を晒している。実はこの姿が本来の宣(『白蛇伝』では許宣)に近かったりするのだ。少なくとも日本で読める『白蛇伝』の文献では同様の印象を受けるはずだ。例えば許宣が白の正体を疑ったり、『2』でも登場する法海にすがる姿はいたたまれない。

前作を観て妖怪の白や青が人智を超えた存在であることはわかった、だがそこにあって宣の存在が重要な位置を占めていたからこそ光るものがあった。その流れで『2』で冒頭から”原典に忠実”な展開を繰り広げられると、期待が外れるだけでなく作品に対する疑問や不安が湧いてくるというものだ。そしてその第一印象は残念ながら覆されることはなかった。本編の感想から外れるが、日本で吹替キャスト込みでの集客を狙うとしたら、これでは厳しいと思う。記事冒頭で配信先のことを書いたが、これは確かにセットだとヒットしないかも、という気がする。

とりわけ今作は青が主人公ということで、前作の宣のような人物像の掘り下げを期待したが、キャラクターとして魅力的に描ききれていなかった。いかなる時でも場所でも、白を慕う心情は理解できる(※『白蛇伝』を知っていれば一層理解できる)。だが白の想いを理解させるに、「私には白しかいない」という帰結だけでは共感するに足らなかった。前作や白自身と同じ展開になってしまうので避けたのかもしれないが、やはり他者との関わりを通じて相手に感情を向け注ぎ込むことで、白への感情や存在も一層際立つというものではないだろうか。もちろんこれは男女の恋愛に限らなくてよい。青に関わる者たちがそういった関係を築く前に尽く途中退場してしまう様は必然というより、ご都合感やキャラクターの造形の甘さを感じてしまった。青の心情描写も短絡的に映ってしまう。

また、大きな仕掛けとなるはずの”面”の種明かしは種と言えるほどのものがなく、若干白けた。面と本来の顔という対比でもなく曖昧で意図を測りかねる。敵役の法海のキャラクターについては恐ろしいまでに描かれず、これがまさに原典(『白蛇伝』)を知っておいてねと言わんばかりだ。むしろこの辺りを新説として盛って欲しかったのだが単なる悪役の域を出ておらず、個人的に大変残念だった。この法海含めたバトルシーンも前作に比べて単調で、盛り上がりに欠けたのもマイナス要素。妖術・仙術が使えないという制限を逆手に取るような戦いが観たかった。

舞台となる暗黒世界については、映像技術的には素晴らしいものだったが、アイデア・表現としてはありがちな、並のものになってしまった。キャラクター含めて所謂「世紀末」である。世の漫画・アニメ作品のリスペクトだとしたら、食傷気味。終始暗めの世界で、闇と光の対比が多く前作のような場面転換・美術の見せ場が少なくなった。美しさの表現ひとつをとっても一本調子なのだ。また前作では必要性があった上で艶のある場面や表現を用いていたが、今作ではそういった見どころはない。配慮だとしたら理解はするが、作品の意欲としては薄れたように感じる。もっとも、今作はそういった表現を活かすに足る内容ではなかっただろう。切符や蜘蛛の妖怪といった、前作でもあった『千と千尋の神隠し』のオマージュ(と思われる)は本作でも健在。

ラストで現代と繋がるのは『白蛇伝』周りを調べていれば楽しめるはずだが、知らなければ、あるいは作品内で解釈するとしたら唐突感が漂うのではないだろうか。まして強烈な起承転結でもどんでん返しでもない。繰り返すが、本作はこういう構成が目立つのだ。そこが私が前作ほど熱中できなかった理由の一つである。関係筋のことは一切知らないが、『白蛇:縁起』の吹替版は上手く商売したなあとつくづく感じる。前作を受けてこのストーリーでは、日本では売りにくい。

最後に、前作で世界を俯瞰するような立ち位置かと思われた宝青坊の主は、本作では若干小物感ある描き方になってしまった。この点が残念だが、どうやら続編では(あるとしたら)キーになる人物の様子である。いや、中心になりそうな雰囲気だ。これをするならもう少し前作の神秘的で底知れぬ雰囲気は残してよかったと思うが、その辺りの感想はもし続編(的作品)があったときに結論づけたい。


総じて、前作『白蛇:縁起』を観た人には観て損はないが期待した方向には多分向かない、『2』から観た人には味の薄い、今一つの内容に映るのではないか。観るのであれば前作から観て、時間があれば『白蛇伝』を調べてから鑑賞するのをお勧めしたい。


(2023/8追記)続編、白蛇3が中国で2024年公開予定の様子。浮生、ですか。楽しみの一言。

※画像をタッチ・クリックすると3予告(YouTube)が再生できます。



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