デジタルエンタテイメント断片情報誌

デジタルな話題もそうでない話題も疎らに投稿

知らない街を歩いてみたいか

歩いてみたいからといって、すぐ行けるとは限らない。そして遠くとも限らない。どうぞ、と勧められて是非是非と言いたくなる場所とも限らない⋯。

今回の話題は旅行の話、観光の話から切り出したい。

普段から海外在住・旅行ブログを読むのは好きだ。ただ今回は、ちょっと経緯から話して、前置きをしてから入っておきたい。そういう発信方法が可能で、そのための時間も取れるSNSでだからこそ、である。書き手と読み手の認識、理解のズレ、これには注意を払っておかなければ。

なんだか物々しすぎか。


かつて日本テレビ系列で放送されていた『ブラックワイドショー』という深夜番組があった。これが通常のニュースはもちろん、ワイドショーでも扱わないB級ニュース、ゴシップ記事を「面白おかしく」紹介する番組だった。出演者も個性際立った、当時にしては、ものによっては今見ても攻めた番組だった。

その中で異彩を放っていたのが、北朝鮮の話題である。律動体操の紹介やマスゲームの映像も衝撃を与えたが、山梨学院大学の宮塚教授(当時)が登場する北朝鮮”グッズ”紹介に惹かれた。収集物は日本でも身近な日用品が中心だが、一筋縄ではいかない絶妙なチョイスだった。そこから推理される北朝鮮の日常生活は、番組の趣旨にとどまらない卓見だったと思う。

このコーナーの雰囲気は今でもDVDで伝わる。ちなみにこのDVDは再生後のメニューも何もない。本放送時の垂れ流し感が良く出ている。


あれから15年以上経ったが、今、北朝鮮について何を知っているのか。ともすれば当時より偏った見方をしていないだろうか。思うところがあった。

観光を通じて北朝鮮を知る

昨年、ある本が出版されて目に留まった。北朝鮮を観光産業とその歴史から読み解く『北朝鮮と観光』(著:礒﨑敦仁 毎日新聞出版)である。

北朝鮮と観光

北朝鮮と観光

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北朝鮮の情報は、今やネットを検索すれば”公式”サイトも見ることができる。個人、それも日本人の旅行記も容易に読める。誤解を恐れず書けば、現代の秘境に行くような感覚だろうか。

しかしながら現況、ツアーとして定められた場所を回ることはできても、一般人が観光という目的の範疇から大きく外れて旅することはほぼ不可能だ。例えばレストランに行くにも現地の案内員と運転手が同行することになる。著者は北朝鮮に行ったことがあるそうだが、やはりフィールドワークには限界があるという。

そこで著者は本書で、公開情報(オシント。open-source intelligence)を通じて得た観光情報を以て北朝鮮の実態を解き明かすことを目指している。詳細な注釈・出典が各項の末ごとに入っており、本の末尾を都度めくることなく参照しやすい。出典を調べていけばさらなる理解や疑問も湧いてくるだろう。また日本と北朝鮮という関係に加え、日本以外の諸外国と北朝鮮はどうかという具合に認識を新たにし、視野を広く見直すという点でも読む価値があると思う。

本書の帯には”日本人の知らない、本当の北朝鮮がここにある!”と宣伝されているが、実際のところは「日本人が知ることのできる北朝鮮の情報がここにある!」という体裁で書かれている。だからこそ、有用なのである。

手軽に読める北朝鮮観光の本から

併せて『北朝鮮と観光』にも載っている、関連本を少し紹介しておきたい。まず、『旅の指さし会話帳42 北朝鮮(朝鮮語) 』(著:西嶋龍 情報センター出版局)。

「おいくらですか?」といった、旅先で使いそうな会話のガイドブック北朝鮮版だ。持っていくと没収されるという話がある(大丈夫という話もある)上に、そもそも使用される機会が最も少ない会話帳かもしれない。それでも朝鮮語と韓国語の違いや単語の解説は興味深い。参鶏湯(サムゲタン)を北朝鮮では「タッコム」と言うそうだ。


Kindleで読める本としては、先に紹介した著:宮塚利雄の本がやはり面白い。『誰も書けなかった北朝鮮ツアー報告』(小学館文庫)は90年代初期に北朝鮮を訪れた際の旅行記だが、読んでおいて損はない。平壌市中心部のマップつき。

まず90年代の旅行事情を知るといった前提で読むのがよいと思う。しかし朝鮮語、韓国語といった言語だけでなく、朝鮮半島の事情に通暁している著者の視点は、今読んでも色褪せない内容が多い。通史としての解説は一読の価値がある。視点も素朴ながら鋭く、まさに学究肌である。さらにツアーでありながら、先に書いた”フィールドワークの限界”に果敢に挑む著者の行動力に舌を巻く。朝鮮鉄道史を調べるために、平壌駅(※上の画像は駅の通路である。もちろんフリー画像)で切符を求めるエピソードが印象に残った。

著者は今だに北朝鮮関連のテレビ番組で見かけるが、その人柄を知っていれば多少なりとも驚く内容かもしれない。いやあの人柄だからこそ、研究を続けられているのかもしれない。


比較的新しい本であれば、『朝鮮よいとこ一度はおいで!: グッズが語る北朝鮮の現実』(風土デザイン研究所)が読みやすく、好事家向きといえる。

北朝鮮グッズ事情・最新版という趣で、基本ひとつの見開きページにつき一つの物・事象の解説である。話題の切り口も豊富で飽きさせない。機知に富んだ内容だと思う。

例えば”理髪店”のトピックでは、「金正恩が最も信用している人物は誰か」という答えを「理容師」とした上で、この調子である。以下引用:

料理師が食べ物に毒を入れる可能性もあるが、これは食前に入念な「毒見チェック」があるから、何とか毒殺だけは避けられるが、理容師は、ハサミだけでなく、カミソリも使用するので、いくら屈強なガードマンが付いていたとしても、凶事は瞬間的に発生するので、金正恩は理容師を全面的に信頼するしかなく、そのような信頼関係があってこそ、あのような特殊なヘアースタイルが誕生するのである。

ジョークはわかっているが言い得て妙で、確かにあの髪型にカットしている理容師はいかなる人物か、というのが気になってくる。料理人などは度々話題になるだけに尚更だ。また「退廃思想にかぶれた髪形」(長髪)は禁止されているそうだが、その気になればお付きの理容師は現代最新のヘアースタイルにも調髪できるのだろうか。興味は尽きない。



最後はこうして気楽に締めくくろうと思っていても、ふと現実に戻ると本当に生死が話題になっている。そして方方で議論になっているが、現実に「見た」人の話など、とんと聞かない。自身の浅学は認めるにしても、「知ること」とは一体何なのか。実際に行ってみれば済むものでもない。この話題には慎重かつ、たゆまずに向き合いたい。笑って、茶化して、皮肉ってでは、どうにもいられなくなった。

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