デジタルエンタテイメント断片情報誌

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古関裕而のことを本でちょっと知って、その作品を聴く

日本の作曲家、古関裕而のことを知るに手軽な書籍と、音源を紹介してみたい。

記事タイトルで”ちょっと”と書いたのは理由がある。知識は不要とは言わないが、知識や情報に囚われすぎて音楽から受ける印象や感動を見失って欲しくないからである。まして音楽である。聴きもせずにああだこうだ言うのは論外だが、配信サービスで容易に「まず聴いてみる」ができる昨今、「あまりピンとこない音楽だった」としても一向に構わない。後で気になったらまた聴いてみればよいし、好みや聴き方が変わるかもしれない。「この曲の作曲経緯は~で、だから素晴らしい」といった鑑賞は、お勧めしたくない。


少し御託が過ぎたが、この記事が古関裕而の音楽を聴く際の一助になればと思う。

古関裕而の生涯と作品を知る

2020年に向けてテレビ番組から関連書籍、音源の発売と、古関裕而の注目度が高まってきた。知っている向きからは今更、という声もあろうが、こうして話題になることを素直に喜びたい。

そんな古関裕而の生涯と作品をコンパクトにまとめた新書が昨年発売された。『古関裕而―流行作曲家と激動の昭和 』(著:刑部芳則 中公新書)。これがまず古関裕而を知るに手っ取り早い好著だ。生誕から音楽家を志すまで、生涯と時代を辿りながら有名曲からそうでない曲まで、そつなく紹介されている。略年譜に作品や参考文献の一覧も便利だ。体裁によっては、ハードカバーで出版されていても違和感がないと思うくらい充実している。自伝も発売されているが、古関裕而入門ならば私はこの本で良いと思う。

ただ、音楽学校で専門的なクラシック音楽を学ばなかった古関裕而が、”もしも音楽学校に行っていたら、高尚な音楽評論家からは絶賛されたかもしれないが、国民歌謡のような硬い楽曲しか作ることができず、大衆から支持されることはなかっただろう”(P.236)という箇所には個人的に異を唱えておきたい。

作曲を始めてクラシック音楽家を志し、独学だけでなく当時のクラシック作曲家からも音楽を学んだ古関裕而が、もしも音楽学校で学んでいたら、クラシック畑に進んでいたら⋯。オペラを作ることを生涯夢見たという古関裕而ならば、クラシック音楽でも広く受け入れられる作品を残したのではないか。私はそこに夢を見たい。

今や配信サービスが隆盛である。様々な曲が簡単に手元で値段も安く(ときには無料で)聴ける。クラシック音楽だって簡単に聴ける。”高尚”などと躊躇する前に、聴いて好みを判断するに容易い。音楽の聴き方、あり方を問わず、私も古関裕而に限らず、広く音楽の魅力を伝えたいと僭越ながら思っている。

AmazonプライムやSpotifyで聴ける古関裕而

それではAmazonプライムやSpotifyといった配信サービスを中心に、古関裕而の作品をサクッと紹介したい。録音もなるべくステレオ音源で。私自身は歴史的音源も好きなのだが、いきなりモノラルでは驚く向きもあるだろう。それらは興味が湧いたら各自聴いてみてもらいたい。

まずは既に紹介した書籍『古関裕而~』でも紹介されている、作曲者”会心の作”『オリンピック・マーチ』。今また注目されている曲だと思う。吹奏楽作品として近年も良い録音が残されているが、CDが一昨年に発売された後に配信された『世界に冠たる日本のマーチ』(指揮:武藤英明 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 EXTON)の管弦楽版が大変素晴らしい。

弦楽器が加わったことで音楽に備わっていた優美さが一際増した。広がりのある管楽器の響きも嬉しい。まさに生気ある演奏だと思う。この曲に限らず、アルバムタイトルに偽りない日本を代表する名行進曲が収録されているので是非ともオススメしたい。これが手軽に聴ける喜び。古関裕而作品では『スポーツショー行進曲』『栄冠は君に輝く』も収録。これらの演奏も言うことない。


古関裕而が生前に歌について語ったことが、やはり『古関裕而~』で紹介されている。以下引用:

「歌は上手下手の前に、正しくうたうことが前提だ。戦前の歌手の多くは音楽学校でクラシックの訓練を受け、譜面を渡されるだけで正確にうたった」、「いまの歌手は技巧的には、いかにも上手そうに歌うが、譜面通り正確に歌うことをしない。鼻先で、ちょっとくずして⋯⋯いやですねえ」と答えている。
(『古関裕而―流行作曲家と激動の昭和 』 中公新書)

それでは”にっぽんのうた”を研究し、歌う活動を続けているプロ、声楽家:藍川由美の歌う古関裕而はどうだろうか。残念ながら今はCDしかないが、『古関裕而歌曲集1、2』(藍川由美(ソプラノ) 日本コロムビア)。

『露営の歌』から『長崎の鐘』、『モスラの歌』まで主要な楽曲はもちろん、『愛国の花』や『比島決戦の歌』といった戦時歌謡も収録。『2』が戦時歌謡中心の構成だ。歌唱については清涼感溢れる、堂々たる歌いっぷりだと思う。それでいて無駄な硬さや力みは感じない。私には歌の魅力が大いに伝わる。

古関裕而歌曲集/長崎の鐘~新しき朝の

古関裕而歌曲集/長崎の鐘~新しき朝の

  • アーティスト:藍川由美
  • コロムビアミュージックエンタテインメント
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レクイエム「ああ此の涙をいかにせむ」古関裕而歌曲集 2

レクイエム「ああ此の涙をいかにせむ」古関裕而歌曲集 2

  • アーティスト:藍川由美
  • コロムビアミュージックエンタテインメント
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CDの紹介だけでは寂しいので、配信で聴ける藍川由美歌唱の音源を紹介。『栄冠は君に輝く~古関裕而 作品集』(藍川由美(ソプラノ) カメラータ・トウキョウ)。ちゃんとあるんですよ、これが。特にSpotifyでは検索で見つけにくいので、少しでも聴かれて欲しい。タイトルにある『栄冠は君に輝く』を始めとしたスポーツ関係の曲、NHKラジオ歌謡『緑の馬車』といった爽やかな曲が収録されている。歌と歌唱の相性抜群。


スポーツ関係といえば、六甲おろしとして有名な『タイガースの歌』3種に、『巨人軍の歌』2種も収録されているので、野球ファンもどうぞ。そうそう、『紺碧の空』『我ぞ覇者』もお忘れなく。


他に、どっぷり古関裕而に浸かりたいのならば、生誕100年を記念して発売された7枚組CD『生誕100年記念 国民的作曲家 古関裕而全集』(コロムビアミュージックエンタテインメント)が貴重な楽曲も収録されている。30年前に発売された同全集よりも「全集」に相応しい収録内容になっているので、今買って聴くならこちらだと思う。


現在聴ける音源から、状態の良いもの、有名な楽曲を中心に紹介してみた。これだけ並べてみても、まだまだ古関裕而は忘れられていない作曲家だと思っている。聴くきっかけなど、私などが問わない。これからも古関裕而の音楽は生き続けるだろう。

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