デジタルエンタテイメント断片情報誌

デジタルな話題もそうでない話題も疎らに投稿

生誕でも没後でもショスタコーヴィチ 序

ショスタコーヴィチの話をしたくなった。音源雑談が中心になるだろうが、コンサートや書籍の話題も適宜やろうと思っている。以前生誕110周年記念の交響曲全集をネタにして交響曲中心の雑談を振りまいたが、ショスタコーヴィチの魅力は交響曲にとどまらない。そして生誕と没後関係なく話題にしたい魅力がショスタコーヴィチにはある。そう思っている。余談だが今年(2020年)も没後45周年だ。45を記念するのは三島由紀夫だったか。まあどちらもそんな年数など笑止千万、と言ってくれるだろう。

昨今は音楽配信、とりわけサブスクリプション隆盛である。ディスクを買いにショップを行脚せずとも、「ちょっと検索して聴いてみよう」ができるわけだ。だが今日は〇〇聴いた、だけでは行き詰まるし味気ない。音源紹介については配信アリの新し目のものから、かつて「名盤」「レア」とされていた音盤の今、といった具合に少しでも時流に乗った有益な話ができればと思う。ちなみに配信ではSpotifyを中心に利用している。

ショスタコーヴィチに限らず、今だに「この曲(演奏)がこの盤でしか聴けないのは残念だ」みたいな話題を巷で見かける。そんなときに配信サービスで検索すると、結構な確率で配信音源だったりする。なぜ配信でも聴けると確認し、紹介しないのか。クラシック音楽が孤高の趣味だとしても、ああだこうだとネットで世界中に発信するのなら、多くの人に聴いてもらおうと思わないのか。沢山聴かれて人気が出たら、新録される可能性だってあるではないか。

ちょっと下衆の勘繰りが過ぎたかもしれない。私もコレクション・お買い物自慢、「俺は知っている」の優越感に浸りたいだけの話に陥らないよう、自戒と謙虚さを忘れずにやっていきたい。


今回は序ということで、雑多に。最近の新譜から、トゥガン・ソヒエフ指揮トゥールーズ・キャピトール国立管弦楽団の交響曲第8番(Warner Classics 3/6発売)が素晴らしい。2019年12月のライブ録音。停滞することのない絶妙なテンポ。ここぞのスピード感も忘れていない。そして静寂と喧騒、音楽に色彩感をもたらすための音量。大きいところは大きく、小さいところは小さい。緊張感の持続もバッチリ。もったいぶった演出が耳につくこともない。ライブだがオケの状態、録音も万全だと思う。私がショスタコーヴィチで求めたいものが揃っていて、久々に”アタリ”の音源。この音源をただ整然とした現代的、純音楽的などと片付けてしまうとしたら、ショスタコーヴィチ観が偏りすぎではないか。言い過ぎか? いやそこまで言いたくなる演奏。一発目から傲慢? ワハハ。

Shostakovich Symphony No.

Shostakovich Symphony No.

Amazon

全楽章を通じてクリアな録音に乗った、実直で陰惨な雰囲気と、木管楽器のなんとも言えない浮遊感が絶品。ある種の美しさすら感じる。終楽章など、ずっと音楽に浸っていたくなる。第8番でありながら、交響曲第15番を思わせるところがまた凄い。あとは第3楽章のスネアの叩き込みがデッドで厳しく、印象的。第3楽章を聴いて久々にエキサイトした。Spotifyでこの楽章がやたら評価されていたのも納得。ショスタコーヴィチの今を聴くなら、この音源だと思った。ソヒエフは度々来日していて馴染みのある指揮者だが、是非ともこのオケとのコンビで実演を聴いてみたい。

ちなみにこの演奏は映像も配信されている(2020/5追記:期間限定で、現在は公開されていない→2020/7追記:また公開されている様子)。もう購入せずにここまで楽しめる時代なのだ。私が話題にしているのが遅いくらい、と自覚しておく。
live.philharmoniedeparis.fr


ショスタコーヴィチの録音では、ブルガリアの指揮者・オーケストラの録音が比較的レア扱いされてきたように思う。レコードでしか聴けない録音があったのだ。だが最近ブルガリアの放送局が積極的に復刻しており、正規で配信またはCD(CD-R)で聴くことができる。レコードと音質比較をしたいのならともかく、どんな演奏か知るには随分と手軽になった。

以前紹介したルスラン・ライチェフ指揮ブルガリア国立放送交響楽団の交響曲第12番や、ドブリン・ペトコフ指揮プロヴディフ・フィルの交響曲第6番(Balkanton)もそう。クラシック専門サイトでなくとも、Amazonで買える。 過去にはこの2つがカップリングされたCDもあったようだが、まずは聴いてから探しても遅くないだろう。

ペトコフの第6番はオケの技量が解釈についていけていない。第1楽章はそのテンポ設定故に崩壊はしていないが、第3楽章などセカセカして雑な仕上がりに聴こえる。私はこういう演奏は、爆演とは言わない。


このシリーズ注目はやはりこれ。ピアノ:ショスタコーヴィチ、イリエフ指揮ソフィア・フィルハーモニー管弦楽団のピアノ協奏曲第2番。1958年1月31日ライブ。『ショスタコーヴィチ自伝』にも記述がある、ブルガリアの演奏旅行の記録。録音残ってたんですねえ! 嬉しい。

録音の状態は、他のショスタコーヴィチの自作自演2種が大丈夫なら十分聴けるモノラル。特にピアノの音はキレイに捉えている。ピアノが興に乗った痛快な演奏。オケも軽やかで良い。ショスタコーヴィチもこの頃はこんな演奏できたんだなぁ。ショスタコーヴィチ(の自作自演)が好きで、この録音を話題にしていない人はモグリ。イカンイカン、ついお決まりのレッテル貼りをしてしまった。お詫びする。機会があったら聴いて欲しい。まあ、演奏の真贋どうこう気にせずとも一聴の価値ある録音だと思う。

(2020/12追記)その1以降はこちら:



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