悪あがきしてもしょうがないのは分かっている。このご時世、ひとつの作品に対してありとあらゆるところから情報が入ってくる。それでもまだ見知らぬ、公開・発表されたばかりの作品については、鑑賞前に「それは知りたくなかった」という話題にぶつかってしまうことがある。
自分もその一員にならないよう、僭越ながら記事に工夫をしている。記事タイトルになるべく作品の内容に係ることや感想を含めない(「傑作!」「ガッカリ」といったものから寸評的な一文など)、ネタバレは記事の序盤でことわっておく⋯⋯等々。
そんな鑑賞前にできれば避けて通りたい情報・ネタについて、先人が書き残していることと併せて紹介しつつ列挙してみたい。
- パブリシティを吹き込まれすぎる
作品を鑑賞する前から制作現場の舞台裏、主題歌・挿入歌の裏話からキャストのスキャンダルまで、作品周辺を知りすぎてしまう。下記引用が書かれたのは50年位前だが、当時から現在とさほど変わらない事情なのがうかがえる:
だから、彼らは映画を見ても、主役二人のラヴ・シーンに感激する前に、「あの二人は、ああ見えても実はすごく仲が悪いんだって」などと得々と話すようになるのだ。
(『ヨーロッパ退屈日記』 新潮文庫)
- 作者: 伊丹十三
- 出版社/メーカー: 新潮社
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- 予告からマスコミ、SNSまで丁寧に内容を解説してくれる
作品本編、本公演を楽しむ前に見どころから何まで教えてくれる。それを虚心坦懐に受け入れ、さあ作品を楽しんでみましょう、というわけだ。前説どころではない。鑑賞時にはすっかり「答え合わせ」「心の準備」ができていたりする。鑑賞後に解説していたのも納得、ということもあるが⋯。以下引用:
もちろん、このような場合、解説が極めて重要なものであることはいうまでもないことですが、やはり、対象から直接に受ける印象や、感動が、恐らく最も重要なものであることは疑いを入れません。そのためにこそ、わざわざそこに足を運ぶのです。
(『音楽入門』 角川ソフィア文庫)
- 作者: 伊福部昭
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- とりわけ技術、テクニックの話題に終始する
最近だとアニメ作品でしばし見かける。映像・演出テクニックの凄み、ワンシーン・ワンカットといった些細な部分に着目して、制作者の仕事歴・他作品と共に語られたりする。語る事自体を否定したいわけではない。個人単位で注目するのも結構だ。だが、作品全体としてはどうなの? というわけだ。引用は音楽に関する話題だが、アニメや映画にも同じことが言えるかと思う。以下引用:
専門の技術批評も及ばぬほどに細を穿ち、わたしは、このひとたちは高い入場料を払って、いったい何を聴きに来たのだろうか、と考えた。
(『武満徹エッセイ選』 ちくま学芸文庫)
- 作者: 武満徹,小沼純一
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例えばSEO対策として、これらを無視することは悪手なのかもしれない。そもそもネット上に感想なんざ綴っている時点でナンセンス、という話かもしれない。
それでも、自分がこれまで鑑賞してきた作品で味わった、初めて体験、体感したときの衝撃や興奮、動揺に充足感、そして余韻を今だ求めてしまうのだ。
そのために、まずはスマホやPCを閉じたいのだが⋯こんな記事を書いているということは、なかなかできていないということである。