デジタルエンタテイメント断片情報誌

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「ズルさ」に潜む優しさと堅実さを読む

新書の流行り廃りは分かりやすく、なかなか残酷だ。目につくタイトルと内容の面白さ・明快さで一世を風靡した書籍も、1年、いや1年も経たないうちに中古で底値がつくようになる。爆発的な注目を浴びた著者も続刊で人気が続かないと、売れもせず話題にもならず、ヒッソリと新刊コーナーから消えていく。

そんな書籍の移ろいを見るのも好きで、ついつい古書店の新書コーナーなどに足を運んでしまうのだが、最近ようやく「市場に安く出回ってきたな」という著者のシリーズに注目している。青春出版社から出版されている佐藤優の「極意」ものだ。

人に強くなる極意 (青春新書インテリジェンス)

人に強くなる極意 (青春新書インテリジェンス)

「ズルさ」のすすめ (青春新書インテリジェンス)

「ズルさ」のすすめ (青春新書インテリジェンス)

40代でシフトする働き方の極意 (青春新書インテリジェンス)

40代でシフトする働き方の極意 (青春新書インテリジェンス)

著者の経歴・活動ジャンルは興味や知的好奇心をくすぐる上に、時流に乗った話題も多く、(個人的にはその風貌のインパクト含めて)これはウケるだろうな、という印象をかねてから抱いていた。今更の話かもしれないが、これだけ書籍コーナーを席巻するのは必然だったのだろう。実際に著作を読んでみると、「イデオロギー関係なく、知的生活、人間としての価値」を問う内容だな、というのが第一感だ。もし思想・信条を発端として著者の存在に抵抗があるのなら、それこそ読んでおくべきではないかと思う。なぜ受け入れられないか、はたまた直感的に”嫌い”か、根拠づけの材料になるのだから。私もそんな取捨選択は当然している。


話が少しそれたが、この3冊の新書はそんな著者が働き方、生き方を”実用的に”説いたものだ。エピソードを交えた行動の指針と、読者層にフィットする柔軟なアドバイスとしての語り口が、平易な言葉で理解しやすい。特に『「ズルさ」のすすめ』の内容が、「ズルさ」という言葉のイメージとは裏腹に、堅実で、ときに優しくて得心が行く。

例えば「時間は守る」「自分の仕事の力量を見極める」といった、社会生活をする上でのごく基本を律する一方で、精神や肉体を消耗してしまった人にはきちんと救いの手を差しのべている。以下引用:

むしろ、ときにはズル休みしてもいい。あえて休んで仕事や情報を遮断する。1日や2日休んだからといって、会社が潰れるわけではないでしょう。精神や肉体が悲鳴をあげているなら、その内面の声に従うべきです。
(『「ズルさ」のすすめ』 P.94 青春出版社)

ネット界隈や自己啓発本の類では、ひたすらな上昇志向が並べ立てられていることも今だ多く、このような”塩梅”は看過されがちだ。まず本書はこういう甘さではない、優しさをきちんと備えている。


また、我々が身を任せがちな世の中の動向や流行に対して、知識・見識を以て踏みとどまることの重要性を説いている。これは3冊一貫した特徴だ。以下引用:

 また、「復讐するは我にあり」という言葉をご存じでしょうか。新約聖書「ローマの信徒への手紙」12章19節に出てくる言葉です。一見すると復讐をすすめているかのように聞こえるかもしれませんが、まったくの逆です。
 その意は「復讐は人間がするのではなく、神が行うもの。神の怒りに委ねよ」ということです。この場合の我とは、神が自らを指して言っているのです。
(『「ズルさ」のすすめ』 P.153 青春出版社)

 法治国家である私たちの現実社会では、神の位置に法があります。犯罪は法が裁く。時代は違えど、個人的な復讐の感情だけで個々が勝手に仇を討つようになると、それは復讐の連鎖になってしまう。
「倍返し」という言葉は一時的な流行にすぎなかった。そう言える社会であってほしいと、切に願います。
(同 P.154)

世の流行りに同調し、追いかけたときにぼんやりと違和感や疑問を抱いた経験があれば、こんな一節からも氷解することがあるのではないだろうか。繰り返すが、これはイデオロギーどうこうの議論ではないのだ。


今回紹介した新書は古書店で溢れていたとしても、まだまだ価値ある中身なので、お手頃価格の今こそお薦めしたい。

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