自分にとって、居心地のいい空間をつくりたい。本が読めて、勉強できて、音楽が聴けて⋯そんなことを考えている人は世間でも少なくないのか、「書斎・趣味の部屋特集」みたいな記事をネット・誌上でもしばしば見かける。
そんな思いの原点は何だったのか、きっかけになった本のひとつを久々に見かけて手にとってしまった。『知的生活の方法』(著:渡部昇一 講談社現代新書)である。有名な本だと思う。現在は新装版が並んでいるが、私が初めて読んだ頃は講談社現代新書とすぐわかる、あの薄黄色のカバーだった。
- 作者:渡部 昇一
- 発売日: 1976/04/23
- メディア: 新書
著者が繰り返し提言する、とかく本を読むこと、しかも買って読むこと、自身の「ほんとうにおもしろい」という感覚をごまかさず、追求する読書の姿勢は今読んでも共感するし、得心が行く。アメリカに行き英語で”おもしろい”小説を探す中で、探偵小説を読み込んだり、ポルノ小説に少々脱線してしまうくだりも親近感が湧く。
そんな著者の体験談に加え、古今東西の作家・芸術家の有名なエピソードが、さらに知的生活に対する羨望を生むのだ。この辺りの味わいはスマイルズの『自助論』に近いのではないか。『知的生活~』も『自助論』も、数回読んだきり何年も読み返さない時期があるが、自然と内容が体に染み込んで糧になっている気がする。
- 作者:サミュエル スマイルズ
- 発売日: 2002/03/21
- メディア: 文庫
また、「クーラーの効用」という段では、日本の夏にクーラーをつけるのは知的生活にとって如何に有益かが力説されており、今年のうだるような暑さを予見しているようで苦笑した。
以前この本を読んだ頃と今の私の違いと言えば、著者の他の著作や思想・信条をいろいろと知ったことだろうか。ひょっとしたら、そのことで著者の名前を聞いただけで眉唾ものだとか、拒否反応がある人もいるかもしれない。
しかし、著者は冒頭の序文や文中で繰り返し、この本で目指している所をはっきり述べている。以下引用:
知的生活の価値はイデオロギーと関係なく、人間としての価値である。
今でもこの本が絶版にならず、内容も大いに共感できるのは、ひとえにこのスタンス故ではないだろうか。この本を読むとむしろ、今はイデオロギーのために・ありきで知識・理論武装していないか自問したくなる。まだまだ広く読まれて欲しい本である。
ちなみに、そもそも”知的生活”という言葉が、何だか聞き慣れない、気取っているように感じたアナタ。そんなことも著者は想定している旨、序文で書いているのでご一読を。