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音楽の新たな主張・コンサートからサウンドトラックへの進化―CD『ガールズ&パンツァー オーケストラ・コンサート〜Herbst Musikfest 2015〜』を聴く

2015/11/3に開催されたガールズ&パンツァー のイベント、「GIRLS und PANZER Herbst Musikfest 2015」(よこすか芸術劇場、指揮:栗田博文・東京フィルハーモニー交響楽団)の演奏が、『ガールズ&パンツァー オーケストラ・コンサート 〜Herbst Musik Fest 2015〜』(ランティス LACA-9436/7)としてCD化され、2/10に発売された。『劇場版』サントラもそうだが、ガルパンの「音楽」を楽しみにしていて、新たなアイテムの発売に心躍った御仁も多いかと思う。

当日のコンサートでは、本編に沿った語り(西住みほ役:渕上舞による)が入り、スクリーンに映像を流しながら、オーケストラが映像に合わせて演奏をするスタイルだった(当日の感想はコチラ)。しかしながら、このCDが単なるコンサートの演奏を収録、というだけでなく、その内容や楽しみ方でぜひ注目されて欲しい一品で、今回はその魅力を大きく2つに分けて語り、お薦めしたい。

◆魅力その1:より表現力を増した音楽で、ガルパンが楽しめる

アニメや映画の音楽は、ただ音楽が垂れ流されていればよい、というものではない。音楽は、映像と一体化し、作品を盛り上げるための効果を生む。本来、音楽だけを作品から切り離すことは、当然意図されない。しかし、優れた音楽はときに作品を体現できる。音楽だけを聴いてみても、作品の内容やイメージを崩さず、その世界を楽しませ、没頭させてくれる。それがサウンドトラックを聴く楽しみである。

今回CDに収録された楽曲には、オーケストラによる新たな演奏・アレンジが加わった。このことが、これまで発売されたTV版サントラや劇場版サントラに匹敵するほど、ガルパンの世界に寄与していて、大変聴き応えがある。単に演奏者の数や音の厚みが変わったということだけでなく、楽曲にさらなるストーリー性・キャラクター性をもたらした、と言っても過言ではない。

例えば、オーケストラにはバイオリンをはじめとした弦楽器が編成に大きく加わる。映画音楽がつくられるときの古典的な手法だが、弦楽器の演奏は音のつながりを助ける。特に息を入れることが必要な管楽器に対し、音の持続性も保てるというわけだ。もちろん弦楽器の音色も新たな表情となる。そうすると管楽器だけでなく、全ての楽器に別の活用が生まれる。結果、音楽が担える要素が増え、音楽はより作品を語れるようになる、というわけだ。

そんなことを踏まえて、まずDisc1から数曲聴いてみよう。「生徒会、悲壮な決意とともに進みます!」は弦楽器の旋律が強くなり、もうコテコテの人情味溢れる世界だ。音楽を聴きながら生徒会3人組の様子を想い起こすだけでニンマリしてしまう。お馴染みの「開会式です!〜栄光の戦車道全国大会始まります!」も、行進曲のような曲調の中に、たおやかな表情が加わり、戦車道が「乙女のたしなみ」であることを再認識してしまう。学校別では、「ブリティッシュ・グレナディアーズ」は愛らしさの上に、エレガントさが加わった。聖グロリアーナの車輌内で格言が聞こえてきそうだ。そして、「リパブリック讃歌」。弦楽器の序奏から、"アメリカ"をイメージさせる音楽・ジャズ的表現を盛り込んでからのアレンジのカッコ良さ。サンダースのイメージを刷新し、新たな試合が始まるのかのような興奮を覚えること請け合い。

もちろん、Disc1だけではなく、Disc2の収録曲も聴き物である。「戦車道とは女子としての道を極めることでもあります!」はTV版サントラよりも勇壮な演奏に仕上がっていて、一年生組の成長みたいではないか。「ポーリュシュカ・ポーレ」は楽器の移ろいの面白さもさることながら、ブラスが効果的で、吹雪の雪原を進むプラウダが思い浮かぶ。「パンツァー・リート」は手拍子が入る良さだけではない。『劇場版』サントラとも異なる、曲に佇む悲壮感がたまらない。黒森峰に雪辱を果たして欲しくなる。


以上、収録曲について感想的なことも併せて、掻い摘んで紹介してみた。これより他は是非とも実際に聴いて、音楽によるガルパンの世界に浸ってほしい。ちなみにジャケット、ライナーノーツには、曲目、演奏者、簡単な収録曲解説のみ記載されている。当日についてや、パンフレットの内容が欲しくなる所だが、ひたすら音楽に浸るというコンセプトであれば納得か。

◆魅力その2:サウンドトラックとしての充実度

このCDは11/3のコンサートの様子を収録しているので、再生順に聴けば、当日さながらに楽しめる。しかしCDでは当然だが、好きな曲を選んで聴くことができる。ちなみに当日のコンサートでは、曲が終わるごとに拍手が入ったが、CDではこの拍手をカットしてある曲も多いため(全てではない)、他のサントラと併せて再生した時に、演奏が途切れなくて煩わしさがない、と思う向きもあるだろう。

また、コンサートのコンセプトも関係してくるが、収録曲は「組曲」や「メドレー」といった形式をとらず、これまでのサントラに収録された時と同様に、単曲で演奏・収録されている。聴きたい曲を聴くのに飛ばしたり、編集したりする手間がない。それこそコンサート用の楽曲というよりも、サントラの収録を意識したようなつくりなのだ。コンサートで聴く分には1曲が短く感じたかもしれないが、サントラの演奏として時間の長短なく「そのまま」演奏・収録してくれることは、他のサントラの録音と比較する上でも、大変ありがたい。

サントラとして考えた時に重要な、演奏についても破綻なく(さすが東京フィルは手慣れている)、音質も問題ない。特に当日はスピーカーも使って客席に音を流していたせいか、オーケストラやホールの響きとしては「?」だったが、CDで聴く方が違和感なく収録されているように思う。これまでのTV版、『劇場版』サントラよりも"空間"を感じる音になっている。残響も『劇場版』サントラより自然だ。

もちろん、音のバランスもちゃんと調整されている。「新しい朝の始まりです!〜こんな普通の学園生活って素敵です!」や「昨日の敵は今日の友です!」のようなソロパートが目立つ曲も、音が小さすぎず遠すぎず、よく捉えている。
ただ、「DreamRiser」を始めとした歌の収録は好みが分かれるかもしれない。当日の音響設備そのままに収録されている。歌を中心に据えた(歌がキレイに聴こえる)収録・調整ではない。個人的にはこういう収録のほうが臨場感があって好きではあるが。


当日のコンサート通り、語りを聴きながら、映像や演奏の様子を思い出して楽しむこともできる。一方で、楽曲だけ取り出して、音楽だけでガルパンの世界を堪能できる。当日コンサートに行っていなくとも、これから発売されるBDを観なくとも、十分楽しめる。サウンドトラックとしての良さも兼ね備えたCDとして、贅沢なつくりになっている。

<これから発売のBDの楽しみ方は?>
最後に2/24発売予定のBDについて書いておこう。当日の演奏の様子や、演奏中に流れた映像、当日の出演者が「見たい」あるいは「気になる」のであれば、当然BDを選択肢に入れても良いかと思う。私自身、演奏の様子は観たい。また当日は、オーケストラを見るか、演奏時に流れた映像(スクリーン)を見るか、悩ましい思いをした御仁もいるだろう。その点、BDなら繰り返し何度でも鑑賞することができる。音だけではなく、映像もだ。それこそ、BDを買えば映像も音も全て楽しめる。

こう書くとBDの方が得なようだが、どちらにするかは各自選んでもらえればと思う。私は前述の通り、どちらでも楽しめるし、楽しみ方があると思う。ちなみに当日コンサートに行った者として、映像と演奏のシンクロはエキサイトしたし、特に「あんこう音頭」はCDでも十分楽しめるが、映像も(ある意味)観てもらいたい気がする。BDも入手したら感想を書きたいと思う。

※2020/3追記:

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