デジタルエンタテイメント断片情報誌

デジタルな話題もそうでない話題も疎らに投稿

野沢秀通(ノルドストーム)の音楽

趣味の世界で「これは周囲が知らないだろう」と思ったものが、案外その筋では有名で、珍しくもなんともなかったということがある。ネットが普及し、SNSを始めとした情報・意見交換が何時でも誰でもできる昨今、「マイナー趣味」を自認していたはずが、世の中は広く、自分以外にも知っている人・あるいはもっとディープな人が大勢いた、ということも少なくない。

下衆の勘繰りが過ぎるかもしれないが、そうした状況で、少しでも「他人の知らないものを知っていたい・話題にしたい、ましてや皆知っているなら知っておかなければ」という心情が、自身の本来の興味・関心から外れて「意地」になっていないか、あるいは前述のSNS等のための「ネタ」としての知識ばかり先行していないか、自分や周囲が語る趣味の話題をふと見渡すことがある。

例えば最近のクラシック音楽・CDの世界では、特にタワーレコード企画による一連の復刻がその代表格で、「レア盤・貴重盤」と評されていたCDが次々と再発され、その結果、中古市場で新盤・旧盤共に在庫がダブついているのを見かけたりする。「なあんだ、珍しいから持っていただけか」というわけだ。ある意味、市場に出回り無情な評価が露呈したとも言える。

そんなことを思いながら今回は、ショップをハシゴし、ネットを巡回して”お宝”を探していた頃に購入した、作曲家・野沢秀通(ノルドストーム)のレコード、CDの話をしたい。話の枕が無駄に長く、自虐・皮肉にも程がある? まあそんなマニアックでセンセーショナルな話を意気揚々としているわけではなく、気軽な話ですよ、ということです。

90年代くらいまでの『音楽の友』や『レコード芸術』(音楽之友社)といった雑誌を読んでいたクラシック音楽ファンは結構知っていることが多い、作曲家・野沢秀通(ノルドストーム)。現代日本の作曲家(1954~?)というより、レコードショップの経営者として有名かもしれない。ノルドストームはアメリカでの活動名。詳細は後述。

私が初めてその名を知ったのは、前述の通り、通っていたショップの”邦人特集”で開店待ちしているときだった。一緒に並んでいた客から、その作曲家の名前と話を聞いた。それから別の場所で他の客に聞いてみたら、やはり「知っている」とのことだった。今思えば、片山杜秀や俵孝太郎といった”マニアの親玉”みたいな人物が話題にしていたのも合点がいく。

ここから血眼になってレコード・CDを・・・というわけでもなく、ほどなくして『交響曲』の第1番~第4番、管弦楽集を揃えることができた。特に『交響曲第1番』、『第2番』のレコードは容易に、しかも安く見つかった。1枚600円くらいだっただろうか。本体は再生してもノイズなく、美品だった。曲の方はこれまで何度か思い出しては聴いたが、聴く度にそれほどの感銘・印象はなかった。後にレコード、CD共々ショップで数回見かけたが、金額はさして変わらず、「市場は正直だな」と思ったものだ。今どうなのかは知らない。ちなみに『交響曲第3番』はヤフーショッピングで中古を取り扱っている店舗があったりする。以前は『第4番』も見かけた気がする。
store.shopping.yahoo.co.jp


作曲家・野沢秀通(ノルドストーム)については、故・菅野浩和が『交響曲第3番』のライナーで解説をしている。これ以外に正規(と思われる)のプロフィールを見かけたことがなく、どうも面白おかしく話題になるのが常のようなので、この際キチンと引用しておこう。

ノルドストーム(本名=野沢秀通)は我が国の最もロマン主義的な若手作曲家であり、標題交響曲を含めて既に17曲の交響曲を作曲している日本最大のシンフォニストですが、主にアメリカを中心に欧米で作品を発表、活躍しているため、国内ではあまり知られておりません。その作風はドイツロマン派の伝統をモデルにしており、特にメンデルスゾーン、シューマン、ブラームスの影響が強くみられます。


(中略)メロディーは極めてロマン的で美しいのが際立った特徴で、他の20世紀新ロマン派の若手作曲家とは比較しようがないほどロマンティシズムにあふれています。既にLPでアメリカで発売されている第1番の熱情交響曲や第2番のエレガンス交響曲は、今世紀の最も美しいシンフォニーのひとつとして注目を集めており、今後のCD化や新しいレコーディングが待たれております。
(交響曲第3番 『抒情的』CD解説より)

面白おかしく云々と書いたが、正直前言撤回したくなるくらい、衝撃の、ベタベタな解説だ。レコードに載っている英語の解説を日本語訳しただけかもしれないが、ここまで書かれると、「うん、まあ、そうですね」くらいに感想を留めたくなる。というわけで、『交響曲第1番』~『第4番』をサラッと紹介して、あとは各人が実際に聴いての判断に任せたい。管弦楽集はいつか気が向いたら。


『交響曲第1番 熱情交響曲』は竹本泰蔵指揮札幌交響楽団の録音(1989年 ARS 6001)。第1番、2番はレコード。ドイツロマン派をモデルにしていると言われれば納得。いやそれにしても第1楽章の弦パート、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲第1楽章かこれは。
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『交響曲第2番 エレガンス交響曲』。演奏者は第1番と同じ(1989年 ARS 6002)。札響の新しい音楽史には載っているのだろうか。1~4の交響曲の中では、第2番が一番好きかもしれない。なるほどメンデルスゾーン交響曲第3番にブラームスの交響曲第1番と第2番のエッセンス、という印象。と言いつつ、併録の『"St Ceciria's wedding"Suite』の方がまとまった出来栄えに感じる。古関裕而に学んだ(ジャケットの解説より)ことはこの曲のマーチに活かされている・・・のだろうか。
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『交響曲第3番 抒情的』。第3番と第4番は末廣誠指揮仙台フィルハーモニー管弦楽団の録音(1990年 MARCO POLL 8.826003)。怪しいレーベルだが、第3番、4番はCDになっているため、知名度がグッと高いかもしれない。そして、3番・4番は1番・2番と比べると印象が薄くなる。通して聴くと余計そう感じるのだが、どうも作風が一本調子過ぎるのだ。穏やかなメロディを延々と繰り返している。ちなみに併録の『22人の美しい少女』組曲は、「作曲者の旅行写真アルバムに写っていた内外の少女の印象を描いた組曲」とのこと(解説より引用)。作曲背景としてはムソルグスキーの『展覧会の絵』のような曲なのだ。だから何と言われても困るが。
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『交響曲第4番 PASTEL』(録音:1990年 MARCO POLL 8.826004)。パステルである。パストラールではない。でも曲としては多少ベートーヴェンのそれっぽくなる。ただ曲の緩急は言うに及ばず。我流を通すと言えば聴こえは良いが、厳しい。第3番の紹介で既に書いたが、作風として既にマンネリにどっぷり浸かっている感すらある。個人的に、4曲のうち、第4番の印象が最も薄かった。
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ちなみに、各レコード・CDのジャケットは各々違う写真が用いられているようで、ジャケットの全種コンプリートは多分無理だろう。以前ショップで第3番を購入した際、第3番が20枚位のセット物として売られていたのだが、CDの収録内容がどれも同じだったので店員に頼んでバラで買った記憶がある。あの時、まとめて買っておけば・・・などと後悔することはさすがに、ない。

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