デジタルエンタテイメント断片情報誌

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CD『伊福部昭百年紀Vol.2』を聴く

元日にCD『伊福部昭百年紀Vol.2』(スリーシェルズ)が発売されました。2014/7/21・なかのZERO大ホールでのライブ録音。既に「伊福部昭百年紀Vol.3」(2014/11/24・すみだトリフォニー)の会場や、12月中に一部のショップで先行発売されていたので、我慢できなくて(できるわけがなくて)購入して聴き倒している御仁も多いかと思う。ええ、私がそうです。私は「百年紀Vol.3」の会場で買いました(もっと言えば、Vol.2のCD発売も当て込んで行きました)。

3SCD-0018 伊福部昭百年紀Vol.2

3SCD-0018 伊福部昭百年紀Vol.2

「百年紀」シリーズ(全3回)は、幸い当日の演奏会にも全て行くことができた。演奏会当日の感想も書けばいいのだろうが、録音の発売についても意思ある演奏会*1だとわかっていたので、『Vol.1』と同様に、敢えて発売されたCDのこと・映画本編との関連を中心に感想を書いておきたい。ただ、折角演奏会に行ったのだから、当日の楽器・編成のことなど、必要に応じて多少は入れようと思う。何より演奏された曲は、今後も音源が残り、繰り返し聴けることが嬉しい。

⋯まあ私自身、後々知って行ってみたくなる演奏会は山ほどあるので、それよりも手に入れられる音源のことを話そうかな、と。今回の関連で言うと、「SF特撮映画音楽の夕べ」などがそうですね。あとは新交響楽団の演奏履歴を見る度にタイムスリップしたくなる。
閑話休題。『Vol.1』の録音にも特に不満はなかったが、今回の録音も成功していると思う。『Vol.1』より会場ノイズを拾っている(残している)感じはあるが、音の伸びや重低音は『Vol.1』を凌ぐ内容で満足*2。演奏効果を考えて収録・調整されているのでしょう。今回の録音・編集はオーディオ・クラシック音楽ファンならピンとくるであろう、オクタヴィア・レコードの江崎友淑氏とのこと。最近の邦人作品CDでも度々見かける名前ですな。ティルシャルのモーツァルト:ホルン協奏曲集、愛聴しとります。

収録内容は「ジャコ萬と鉄」(1949)*3、記録映画「佐久間ダム」、「宇宙大怪獣ドゴラ」、「空の大怪獣ラドン」、「宇宙大戦争」の組曲。当日は「ゴジラVSメカゴジラ」の組曲も演奏されました。

演奏会の曲目が発表された時も思いましたが、選曲、イイですね。ファンなら知ってそうな一般映画作品、ゴジラシリーズ以外の特撮映画作品も並べて、「あ、これやるんだ」「○○(作品名)ならあの曲聴きたいな、やるのかな?」と思わせてくれる。何というか、『SF交響ファンタジー第2番』『同3番』みたいな魅力を感じる*4。ちなみに演奏会当日は2階席(特に中央部)がガラガラで、意外でした。私は正直『Vol.1』よりも曲目に興奮したクチなので⋯。うーん、やっぱり「ゴジラ」(1954)がメインじゃないと人が集まらなかったのかしら。

「ゴジラVSメカゴジラ」組曲はまた別のCDに収録されるようです。そうそう、「ゴジラVSメカゴジラ」で思い出しましたが、アメリカの有志がG-Festで伊福部昭作曲のゴジラシリーズの音楽を演奏*5していて 、その中で「メカゴジラの逆襲」をやっているのね。そう、あの「ソ」に♯の「ドシラソラシドシラ」をやっているのです。平成作品の魅力も捨てがたいが、「メカゴジラの逆襲」も最新演奏・録音で聴いてみたいものだ。映画の内容・音楽自体も他のゴジラシリーズと毛色が違う作品なのです。このG-Fest、「ゴジラ対ガイガン」も演奏していて、やるなぁと思う。

※画像をタッチ・クリックすると動画(YouTube)が再生できます。


では収録曲の感想。「ジャコ萬と鉄」(1949)組曲は、映画本編が現在容易に視聴できないのが残念。音楽の印象として、No.1(タイトル音楽)は、『映画音楽選集』(KICC296/7)に比べると演奏がちょっと柔らかい。トップバッターの演奏だったからこれは仕方ないか。私は『選集』の演奏が鋭利で好き。それ以外の、特に後半の曲の雄々しさは素晴らしい。

「佐久間ダム」組曲も現在映画が容易に観られない作品だが、これは珠玉の演奏。朗々と歌うメインタイトルから、素朴な煌きを感じるピアノの演奏、建設中の作業(機械)描写の躍動感、余韻がたまらないエンディング。『Vol.1』の「国鉄」組曲同様、記録映画の音楽がホント面白い。自然、機械(文明)、人間の要素が強く絡むと、こうも応えてくれる音楽があるのかと思う。「佐久間ダム」はサントラもあるので併せて聴いて補完して欲しい。しかし、映画本編、音楽共に「記録映画全集」なんて出ないのかしら。

未発表映画音楽全集岩波映画編

未発表映画音楽全集岩波映画編

  • アーティスト:サントラ
  • 発売日: 1997/03/01
  • メディア: CD

「ドゴラ」組曲。ドゴラって最近のSF映画で暴れていてもおかしくない、ハイセンスな怪獣な気がする。今ならバリバリCGになるのでしょうか。あ、石炭の採掘量が激減した今の日本には来襲してくれないか。

「佐久間ダム」組曲から続けて聴いているせいかもしれないが、ミュージカル・ソウによるドゴラの描写は、こうして聴くと不気味さと同時に生物の愛嬌も感じる。その流れで、ドゴラの攻撃シーンはメカニックな曲調を加えて対照的に攻めているのか、と妙な納得をしてしまった。ドゴラの天敵(No.14)以降は、だんだんと劇中より曲のテンポが速くなり、熱狂度の高い仕上がり。ピアノの音は映画のサントラと比べると遠いが(演奏会の録音ゆえに)、それを不満に感じさせない演奏のキレと、一体感があります。これはもう、次の演奏会ではアルト・フルートの起用ですね*6


「空の大怪獣ラドン」は、映像も音楽も怪奇色が色濃く、特にラドンの正体判明までは結構不気味で、見せ方が面白い。BDやDVDでは映像が明るく・見やすくなったが、ビデオで観た時分は、映像の暗さもラドンやメガヌロンの怖さを増幅させていた。この組曲では必ずしも映画のシーン通りの演奏ではないが、メインタイトルは前述の雰囲気抜群。最新の演奏でも音楽の魅力は全然損なわれていない。

ラドン登場後の、ラドンの福岡襲撃や追撃の曲は『OSTINATO』(K32X7037またはKICA2212)でもステレオの良い演奏が収録されており、感激して度々聴いてきたが、今回の録音が一段と素晴らしい。ゆったりとしたテンポで始まる、ラドン佐世保に飛来(No.16)〜ラドン福岡襲撃1(No.18-A)などの再現度は高い。曲自体も、ちょっと不気味さが残る感じが流石。衝撃波の猛威(No.18-B)の荒れ狂った響きも良い。その構成にあって、大阿蘇の自然(No.21)は、粋な選曲だと思う。しかしながら、映像を想い起こしながら聴くと、ラドンがバレエダンサーに思えてくる。
ラドン追撃せよ(No.15)について。この曲が流れるシーンは実際観てみると、F-86Fセイバーの攻撃が始まると音楽も途中で終わってしまう。飛行中のラドンを追撃するシーンでずっと流れているわけではないのですな。攻撃にしても、どちらかと言うと福岡に着地したラドンに対して自衛隊は猛攻撃を仕掛けているのだが*7、このCDに収録されている『ラドン追撃せよ』には参った。なにせ音楽が映画のワンシーン(の記憶)を塗り替える勢いで、F-86Fセイバーとラドンに死闘を繰り広げさせているのだから。メドレー形式で他の曲との組み合わせで演奏されるかも、と思っていたので、演奏会当日は嬉しい誤算だった。これ以上はぜひ実際に聴いて確かめてもらいたい。CDではドラのリズムが演奏会の時よりちゃんと聴こえて嬉しい。


「宇宙大戦争」組曲は、ナタール人側よりも人類側を描写した曲が中心。不気味な「ナタール人(M24)」「洗脳(M10)」あたりや、あるいは伊福部”ジャズ”が聴きたかった、という御仁もいるでしょう。まあ個人的には「ゴジラ」(1954)のようにサントラ完全再現して欲しいわけですが。

そしてこの作品で一際注目される、人類側の曲として、宇宙大戦争(No.34)がある。通称『宇宙大戦争マーチ』。そういえば演奏会で「宇宙大戦争」組曲をやると聞いた時、この曲はどんな演奏になるのか真っ先に考えた記憶がある。実際に聴くのが楽しみであり、正直今ひとつな演奏だったらどうしようと思っていた。

⋯とまあこの後も自分なりに色んな文章を考えてみたが、すべて小賢しい気がしたので素直に書きます。宇宙大戦争(No.34)は、映画のサントラ版でモノラルの録音を繰り返し聴いていて、「演奏会か、最新のステレオ録音で凄い演奏が聴きたいな」と思っていた夢が、ようやく叶った。確かにモノラルの録音も音の芯が太く、演奏効果を出すために力の限り演奏しているのが魅力的です。でも、この最新の録音だから出せる迫力と音の鮮明さ(打楽器ですら音が潰れていたんですな)、何より演奏のノリ。映画のサントラ版並みのテンポ設定だけでなく、まさに生気ある極上の演奏です。ピアノ2台両翼配置の効果も抜群。古今東西映画では、飛び道具のない生命体と、宇宙人には滅法強い人類の面目躍如の音楽がここにある。

ちなみに演奏は映画のサントラ版と同じく、2周してます*8。演奏会当日はこれにも感激した。『ラドン追撃せよ』の演奏を聴いた後だったので、正直ラストは「さ、3周目行くのか?」でした。

そしてまた、興奮を落ち着けて、エンディング(No.35)で締めくくっているのが素晴らしい。『ラドン』や『ドゴラ』もそうだが、演奏会用組曲なんて、派手に終わらせるのかと思わせて、ここは映画そのままに余韻を味わえる。映画を観た後の充実感と、映画が終わる寂しさが蘇る。聴いていて、また映画が観たくなる1枚でした。


*1:演奏会当日の事前アナウンスも、神経使ってるなという内容で、コンサート慣れしていても苦笑すると思う。個人的には普段のクラシック演奏会でもあれくらい注意して欲しいな、と思う時はある。往年の特撮ファンは平田昭彦のアナウンスを思い出すんでしょうかね。くぅ、羨ましい。

*2:なかのZERO大ホールも、割とオーケストラの演奏会が行なわれる会場で、極端な癖もなく、コンサートホールとしてそんなに悪い会場ではない気がする。個人的には中野という立地もポイント高い。

*3:「ジャコ萬と鉄」は2種類あって、もう一つの1964年版は高倉健主演です。しかも音楽は佐藤勝。こっちも観たくなりませんか?

*4:いやぁ、『SF交響ファンタジー第1番』は好きですけど、何かにつけてゴジラのテーマが入っている第1番ばかり演奏されているので、チト食傷気味。

*5:採譜を自主的にやったのか、所々音が違うが、演奏が生み出す雰囲気は大変素晴らしい。

*6:「フランケンシュタイン対地底怪獣」はメインタイトルから序盤の流れもゾクゾクしますねぇ。

*7:M24チャーフィーとロケット砲トラック(ポンポン砲)が印象的なシーンですな。

*8:サントラ版の方は、作曲者によると別々に録音しておいた演奏をテープ編集して作ったのではないか、とのこと。聴く度にうまく編集してるな、と思う。

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